『人外境の花嫁』三.青楼街の偏執狂(八)
『人外境の花嫁』
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三.青楼街の偏執狂 (八)
だが降矢木はただの道楽息子ではない。
降矢木ファーマシーは、降矢木の祖父が戦後間もない時期に創業した薬局である。
米軍から横流しされた衛生用品を、ここ横浜の赤線街で売り始めたことに端を発していた。
店を受け継いだ降矢木の父は、早くに正妻を亡くすと、取り憑かれたように女遊びに狂ったらしい。
そして早々に降矢木に店を託すと、三十歳も年が離れた若い女を後添いにして、今はハワイのコンドミニアムで暮らしている。
二十八歳で小さな一軒の薬局を任された降矢木は、実はこの四年間で、横浜に十二の支店を展開するドラッグ・チェーンに育てあげていた。
れっきとした若手経営者である。
と言っても降矢木自身はこの本店にこもって読書三昧、官能小説を書いているだけで、支店は十二人の店長に任せっ放しだった。
現にこの小さな本店も、仕入れから接客まで、経営のほとんどを月絵が仕切っていた。
せいぜい降矢木は、月絵が大学へ行っている昼間の店番しかできなかった。
そもそも降矢木の辞書に金儲けという文字はないのだろう。
あるとすれば、人を見抜く力なのかもしれないと月絵は思う。
各支店の店長は皆、この街のソープで働いていた女達だった。
身寄りもなく、年齢や病気で体を売れなくなった女がいると、降矢木は放って置けずに店を任せた。
金儲けのために支店を出すのではなく、女を助けるために支店を増やしているようなものだった。
元来接客に長けた女達である。
金の恐さもよく知っている。
しかも後がない女達は、降矢木に感謝して懸命に働くことを厭わなかった。
次々と歓楽街に出す支店で、女店長達は同業だった水商売の女の心をつかんでいった。
過酷な仕事でぼろぼろの体を気遣い、疲れた心を癒す人生相談にも乗ってやった。
こうして降矢木ファーマシーは、社長が官能小説を書いていても、自然と増収増益を続ける優良企業へと成長したのだった。
つづく…
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だが降矢木はただの道楽息子ではない。
降矢木ファーマシーは、降矢木の祖父が戦後間もない時期に創業した薬局である。
米軍から横流しされた衛生用品を、ここ横浜の赤線街で売り始めたことに端を発していた。
店を受け継いだ降矢木の父は、早くに正妻を亡くすと、取り憑かれたように女遊びに狂ったらしい。
そして早々に降矢木に店を託すと、三十歳も年が離れた若い女を後添いにして、今はハワイのコンドミニアムで暮らしている。
二十八歳で小さな一軒の薬局を任された降矢木は、実はこの四年間で、横浜に十二の支店を展開するドラッグ・チェーンに育てあげていた。
れっきとした若手経営者である。
と言っても降矢木自身はこの本店にこもって読書三昧、官能小説を書いているだけで、支店は十二人の店長に任せっ放しだった。
現にこの小さな本店も、仕入れから接客まで、経営のほとんどを月絵が仕切っていた。
せいぜい降矢木は、月絵が大学へ行っている昼間の店番しかできなかった。
そもそも降矢木の辞書に金儲けという文字はないのだろう。
あるとすれば、人を見抜く力なのかもしれないと月絵は思う。
各支店の店長は皆、この街のソープで働いていた女達だった。
身寄りもなく、年齢や病気で体を売れなくなった女がいると、降矢木は放って置けずに店を任せた。
金儲けのために支店を出すのではなく、女を助けるために支店を増やしているようなものだった。
元来接客に長けた女達である。
金の恐さもよく知っている。
しかも後がない女達は、降矢木に感謝して懸命に働くことを厭わなかった。
次々と歓楽街に出す支店で、女店長達は同業だった水商売の女の心をつかんでいった。
過酷な仕事でぼろぼろの体を気遣い、疲れた心を癒す人生相談にも乗ってやった。
こうして降矢木ファーマシーは、社長が官能小説を書いていても、自然と増収増益を続ける優良企業へと成長したのだった。
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