『人外境の花嫁』三.青楼街の偏執狂(五)
『人外境の花嫁』
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三.青楼街の偏執狂 (五)
実に気難しそうな男である。
ボサボサの髪を気忙しく掻き上げながら、度の強い黒縁眼鏡の鼻あてを指で持ち上げ、畠山と月絵をギロリと睨んだ。
「ここは幼稚園のお遊戯室ではない」
男はヒクヒクと下瞼を痙攣させながら、口を尖らせて不愉快そうな表情で言った。
身の丈は一八〇センチと高いが、風に吹き飛ばされそうな痩身である。
顔は不健康に青白く、だらしない無精髭が全共闘時代の亡霊を思わせた。
降矢木士朗。
この陰にこもった三十二歳の男が、降矢木ファーマシーの社長だった。
月絵が素直に謝った。
「ごめんなさい。先生にお客様が来られているのを忘れていました」
ガラス戸が開いた店長室には、雨後の筍のように書籍が床から積み重ねられている。
その僅かな隙間に置かれた応接セットに、商談には相応しくない派手なアロハシャツの男が座っていた。
「構わないよ、月絵ちゃん。ちょっと降矢木先生に商売の相談をしていただけだから」
初老のアロハシャツを着た好々爺は、孫娘を見るように相好を崩した。
秋月俊二。
横浜近辺で十数軒の風俗店を営む経営者である。
ソープランドを筆頭に、イメクラから性感エステまで、秋月は飽きることなく新しい刺激を男達に提供してきた。
ここ横浜では知らぬ者がいない風俗界の帝王だった。
「だがな・・月絵ちゃんをヌードモデルにスカウトする不心得者は、吉水の親父に代わって俺がマリアナ海峡に沈めてやるからな」
長年夜の街を仕切って来た秋月は、畠山に向かって微笑を浮かべながら凄んで見せた。
つづく…
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紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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実に気難しそうな男である。
ボサボサの髪を気忙しく掻き上げながら、度の強い黒縁眼鏡の鼻あてを指で持ち上げ、畠山と月絵をギロリと睨んだ。
「ここは幼稚園のお遊戯室ではない」
男はヒクヒクと下瞼を痙攣させながら、口を尖らせて不愉快そうな表情で言った。
身の丈は一八〇センチと高いが、風に吹き飛ばされそうな痩身である。
顔は不健康に青白く、だらしない無精髭が全共闘時代の亡霊を思わせた。
降矢木士朗。
この陰にこもった三十二歳の男が、降矢木ファーマシーの社長だった。
月絵が素直に謝った。
「ごめんなさい。先生にお客様が来られているのを忘れていました」
ガラス戸が開いた店長室には、雨後の筍のように書籍が床から積み重ねられている。
その僅かな隙間に置かれた応接セットに、商談には相応しくない派手なアロハシャツの男が座っていた。
「構わないよ、月絵ちゃん。ちょっと降矢木先生に商売の相談をしていただけだから」
初老のアロハシャツを着た好々爺は、孫娘を見るように相好を崩した。
秋月俊二。
横浜近辺で十数軒の風俗店を営む経営者である。
ソープランドを筆頭に、イメクラから性感エステまで、秋月は飽きることなく新しい刺激を男達に提供してきた。
ここ横浜では知らぬ者がいない風俗界の帝王だった。
「だがな・・月絵ちゃんをヌードモデルにスカウトする不心得者は、吉水の親父に代わって俺がマリアナ海峡に沈めてやるからな」
長年夜の街を仕切って来た秋月は、畠山に向かって微笑を浮かべながら凄んで見せた。
つづく…
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