二十三夜待ち 第十五章
二十三夜待ち 第十五章
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その翌々年、昭和三十一年。
世の中は「もはや戦後ではない」という言葉とともに、三種の神器になぞらえた家電製品の登場で、神武景気と呼ばれた高度経済成長が幕を開けようとしていた。
同時に、当時流行した春日八郎の『別れの一本杉』の歌詞の如く、大都市東京への人口集中が始まろうとしていた。
小鶴の行商も右肩上がりに売れ行きを伸ばし、谷上家の家計をずいぶんと助けるまでになっていた。
言い換えれば、小鶴は行商によって、まだ閉鎖的な農家にあって発言権を築き始めたのだった。
そんなある日、軒先を借りていた蕎麦屋の主人が困った顔で小鶴にぼやいた。
「忙しくて猫の手も借りたい時に、あの野郎が風邪をひくなんてなあ」
「鎌田さんは今日お休みなんですか?」
「ええ、あの野郎、近くのアパートで一人暮らしなんですよ。放っておいたら風邪をこじらせて死ぬかもしれねえなあ・・」
「まあ、大変じゃないですか!」
小鶴は急いで店を畳むと、主人からアパートの場所を聞いて向かった。
そこは店から百メートルも離れていない木造のあばら屋だった。
「鎌田さん、鎌田さん」
鎌田と手書きで書かれた張り紙が剥がれかけた二階隅の扉を叩くと、継ぎ接ぎの丹前を着た寛三が現れた。
扉を開けて小鶴を見た寛三は吃驚して飛び上がった。
「谷上さん・・どうして?」
「だって、店のご主人が・・鎌田さん、風邪をこじらせて死にそうだって・・」
「いえ、昨夜からちょっと風邪気味だったんですけど、朝、店へ行ったら、親方が風邪でも盲腸でもいいからつべこべ言わず今日は休めって・・あっ」
「・・そ、そうだったの」
それは寛三の想いに薄々気づいていた蕎麦屋の主人の粋な計らいだった。
続く…
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
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その翌々年、昭和三十一年。
世の中は「もはや戦後ではない」という言葉とともに、三種の神器になぞらえた家電製品の登場で、神武景気と呼ばれた高度経済成長が幕を開けようとしていた。
同時に、当時流行した春日八郎の『別れの一本杉』の歌詞の如く、大都市東京への人口集中が始まろうとしていた。
小鶴の行商も右肩上がりに売れ行きを伸ばし、谷上家の家計をずいぶんと助けるまでになっていた。
言い換えれば、小鶴は行商によって、まだ閉鎖的な農家にあって発言権を築き始めたのだった。
そんなある日、軒先を借りていた蕎麦屋の主人が困った顔で小鶴にぼやいた。
「忙しくて猫の手も借りたい時に、あの野郎が風邪をひくなんてなあ」
「鎌田さんは今日お休みなんですか?」
「ええ、あの野郎、近くのアパートで一人暮らしなんですよ。放っておいたら風邪をこじらせて死ぬかもしれねえなあ・・」
「まあ、大変じゃないですか!」
小鶴は急いで店を畳むと、主人からアパートの場所を聞いて向かった。
そこは店から百メートルも離れていない木造のあばら屋だった。
「鎌田さん、鎌田さん」
鎌田と手書きで書かれた張り紙が剥がれかけた二階隅の扉を叩くと、継ぎ接ぎの丹前を着た寛三が現れた。
扉を開けて小鶴を見た寛三は吃驚して飛び上がった。
「谷上さん・・どうして?」
「だって、店のご主人が・・鎌田さん、風邪をこじらせて死にそうだって・・」
「いえ、昨夜からちょっと風邪気味だったんですけど、朝、店へ行ったら、親方が風邪でも盲腸でもいいからつべこべ言わず今日は休めって・・あっ」
「・・そ、そうだったの」
それは寛三の想いに薄々気づいていた蕎麦屋の主人の粋な計らいだった。
続く…
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