二十三夜待ち 第十四章
二十三夜待ち 第十四章
FC2 Blog Ranking
そんな時、小鶴は一人の男に出逢った。
軒先を借りた蕎麦屋の若い店員、鎌田寛三である。
中学を卒業して花巻から出て来た十九歳の青年で、東北人らしく寡黙だが働き物で、雨の日の出前も愚痴一つ言わなかった。
「一息入れて下さい」
暑い夏の日には香ばしい麦茶を、寒い冬の日には暖かい蕎麦湯を、店先で茣蓙に座る小鶴へそっと持ってきてくれた。
取り立てて何を話すわけでもないが、小鶴は寛三のさり気ない心遣いが嬉しかった。
不器用で蕎麦屋の店主からはよく叱られていたが、そんな寛三が弟のように愛らしく、小鶴も売れ残った野菜を新聞紙に包んで寛三に渡してあげたりした。
「いつか親方に認められ、暖簾分けして貰って自分の店を持ちたいんです」
それが軒先で行商する小鶴に語った寛三の夢だった。
「あら、ステキだわ・・私も鎌田さんみたいに夢が持てたらいいなあ」
小鶴は寛三が羨ましかった。
若い寛三には無限の可能性があり未来がある。
それに引き換え小鶴は、好きでもない夫と死ぬまで農業を続けて暮らす宿命しかない。
「でも谷上さん、夢を叶えるには実力と責任、そして勇気が必要だと親方が教えてくれました。私にはまだそれがありません」
「・・もっともっと修業を積めば自然と自信がつくはずよ。大丈夫、鎌田さんはきっと暖簾分けしてもらえるわ」
「あ、有難うございます」
朴訥に頭を下げて店に戻る寛三の背中を見ながら、小鶴は宿命に縛りつけられた自分に自虐的な笑みを浮かべた。
続く…
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
FC2 Blog Ranking
そんな時、小鶴は一人の男に出逢った。
軒先を借りた蕎麦屋の若い店員、鎌田寛三である。
中学を卒業して花巻から出て来た十九歳の青年で、東北人らしく寡黙だが働き物で、雨の日の出前も愚痴一つ言わなかった。
「一息入れて下さい」
暑い夏の日には香ばしい麦茶を、寒い冬の日には暖かい蕎麦湯を、店先で茣蓙に座る小鶴へそっと持ってきてくれた。
取り立てて何を話すわけでもないが、小鶴は寛三のさり気ない心遣いが嬉しかった。
不器用で蕎麦屋の店主からはよく叱られていたが、そんな寛三が弟のように愛らしく、小鶴も売れ残った野菜を新聞紙に包んで寛三に渡してあげたりした。
「いつか親方に認められ、暖簾分けして貰って自分の店を持ちたいんです」
それが軒先で行商する小鶴に語った寛三の夢だった。
「あら、ステキだわ・・私も鎌田さんみたいに夢が持てたらいいなあ」
小鶴は寛三が羨ましかった。
若い寛三には無限の可能性があり未来がある。
それに引き換え小鶴は、好きでもない夫と死ぬまで農業を続けて暮らす宿命しかない。
「でも谷上さん、夢を叶えるには実力と責任、そして勇気が必要だと親方が教えてくれました。私にはまだそれがありません」
「・・もっともっと修業を積めば自然と自信がつくはずよ。大丈夫、鎌田さんはきっと暖簾分けしてもらえるわ」
「あ、有難うございます」
朴訥に頭を下げて店に戻る寛三の背中を見ながら、小鶴は宿命に縛りつけられた自分に自虐的な笑みを浮かべた。
続く…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る