二十三夜待ち 第十二章
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だが現実は小鶴の夢を打ち砕いた。
戦争が終わった翌々年、小鶴は十八歳で九十九里浜に近い一宮町の農家に嫁いだ。
睦沢家が決めた結婚だった。
相手は睦沢家に仕えていた小作の親類で、農地解放で小さいながらも田圃を持つ農家の長男だった。
谷上正一は三十歳。
小鶴とは一回りも年が離れていた。
睦沢和馬は何も言わなかったが、おそらく不器量な小鶴の貰い手は、近隣でなかなか見つからなかったのだろう。
しかも正一は粗暴で野卑だった。
稲作の仕事は真面目にするが、教養どころか農業以外のことは何一つ知らなかった。
酒が好きで、飲むと事あるごとに小鶴に暴力をふるった。
「お前のように不細工で小利口でくそ生意気な女は嫌いじゃ。睦沢家に頼まれなければ、俺は絶対にお前など女房にはしなかった」
夫婦の性もほとんど強かんに近かった。
愛撫も何もなく挿入されるだけで、小鶴は正一の性処理道具以外の何物でもなかった。
また舅や姑も小鶴をいびり倒した。
「睦沢家に石女を押しつけられて谷上家も終わりじゃ」
正一と小鶴の間には、結婚して数年経っても子供ができなかった。
貧しい暮らしの鬱憤を晴らすかのように、家族全員がその鉾先を小鶴に向けたのだった。
小鶴は毎晩泣き明かした。
(これがあたしの人生なの・・)
いくら酷い仕打ちを受けても、実家から厄介払いされた小鶴には、帰る家もなく頼れる肉親もいなかった。
早朝から牛馬の如く田畑でこき使われ、家に戻っても深夜まで家事をこなした。
働けど働けど正一や舅姑に認められることもなく、ただ小鶴は地獄へ続く暗い闇の穴へ落ちて行くのだった。
続く…
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