『合 わ せ 鏡』 第十五章
『合 わ せ 鏡』
FC2 Blog Ranking
(十五 )
早紀は屈辱的な姿勢でうめきつつ、何故か幼い頃を思い出していた。
家族でテレビの時代劇を見ている時、悪者にさらわれた気丈な姫君が、荒縄の戒めを受ける場面があった。
子供心に早紀は、姫が卑しい男たちに弄ばれる様を想像し、密かに胸をときめかせた。
(やはり私は…)
恐れていたことは現実になった。
パンドラの箱が開かれたのだ。
中から現れたのは、早紀の心に巣食っていた黒い魔性だった。
そしてそれは、二度と封じ込めることができない奔放な悪魔なのだ。
その時、部屋のチャイムが鳴った。
「せ、先生!」
早紀は慌てて野崎を呼んだ。
こんな姿を他人に見られでもしたら、早紀の野崎も身の破滅だ。
だが野崎は早紀の心配をよそにドアを開けた。
一人の女が入ってきた。
「あっ!葛西先生」
早紀は羞恥も忘れ、大声で女の名前を呼んだ。
葛西京子と会うのは、野崎を紹介してもらった時以来だった。
二人の関係を知り、自身も性奴隷となった早紀は、京子と顔を合わせるのを避けていた。
「すごいわね、まるで潮吹きだわ」
「いや、見ないで!」
早紀は狂ったように首を横に振った。
こんな辱められた体を京子に見られるぐらいならば、いっそ死んでしまった方がましだった。
「見ないでって、谷口さん。あなた金沢で私のDVDを見たでしょ? 野崎に抱かれる私を見て軽蔑した?」
「…私、先生を尊敬していました。立派に仕事を持ち、家庭では良妻賢母だと…」
「それが十五年も不倫を続ける女だとわかってがっかりしたのね」
「……」
「私、見た目と違って性欲が強いの。それが夫では満たされないとわかった時、私は迷うことなく院長との不貞の道を選んだわ。あなたなら修道僧のように禁欲しろと怒るでしょうね。でも家庭はあくまでも私の一部であって、私の全てが家庭ではないわ」
「だからって」
「でも谷口さん、一度火がついた体の欲求が抑えられないことは、あなたが一番よくご存じでしょう? 休日に亭主をほったらかしにして、このホテルに来たのは何故? 夫が満たしてくれないマゾヒズムを、院長に抱かれて癒したかったからでしょう?」
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
FC2 Blog Ranking
(十五 )
早紀は屈辱的な姿勢でうめきつつ、何故か幼い頃を思い出していた。
家族でテレビの時代劇を見ている時、悪者にさらわれた気丈な姫君が、荒縄の戒めを受ける場面があった。
子供心に早紀は、姫が卑しい男たちに弄ばれる様を想像し、密かに胸をときめかせた。
(やはり私は…)
恐れていたことは現実になった。
パンドラの箱が開かれたのだ。
中から現れたのは、早紀の心に巣食っていた黒い魔性だった。
そしてそれは、二度と封じ込めることができない奔放な悪魔なのだ。
その時、部屋のチャイムが鳴った。
「せ、先生!」
早紀は慌てて野崎を呼んだ。
こんな姿を他人に見られでもしたら、早紀の野崎も身の破滅だ。
だが野崎は早紀の心配をよそにドアを開けた。
一人の女が入ってきた。
「あっ!葛西先生」
早紀は羞恥も忘れ、大声で女の名前を呼んだ。
葛西京子と会うのは、野崎を紹介してもらった時以来だった。
二人の関係を知り、自身も性奴隷となった早紀は、京子と顔を合わせるのを避けていた。
「すごいわね、まるで潮吹きだわ」
「いや、見ないで!」
早紀は狂ったように首を横に振った。
こんな辱められた体を京子に見られるぐらいならば、いっそ死んでしまった方がましだった。
「見ないでって、谷口さん。あなた金沢で私のDVDを見たでしょ? 野崎に抱かれる私を見て軽蔑した?」
「…私、先生を尊敬していました。立派に仕事を持ち、家庭では良妻賢母だと…」
「それが十五年も不倫を続ける女だとわかってがっかりしたのね」
「……」
「私、見た目と違って性欲が強いの。それが夫では満たされないとわかった時、私は迷うことなく院長との不貞の道を選んだわ。あなたなら修道僧のように禁欲しろと怒るでしょうね。でも家庭はあくまでも私の一部であって、私の全てが家庭ではないわ」
「だからって」
「でも谷口さん、一度火がついた体の欲求が抑えられないことは、あなたが一番よくご存じでしょう? 休日に亭主をほったらかしにして、このホテルに来たのは何故? 夫が満たしてくれないマゾヒズムを、院長に抱かれて癒したかったからでしょう?」
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る