『捨 て 犬』 第八章
『捨 て 犬』
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(八)
一瞬、会場を見回していた英子と目が合った。
慌てて視線を逸らしたが、英子は梅原を見つけるとつかつかと歩み寄ってきた。
(仕返し…か?)
梅原は無意識に身構えた。
英子なら公衆の面前で殴りかかってきても不思議ではない。
しかし英子は梅原の正面に立つと、バックから紙切れを取り出して手渡した。
「きちんと話をつけましょう」
英子はそれだけ言うと、きっと梅原を睨みつけ、踵を返して再び人の輪の中に戻って行った。
英子の去った後、残された甘い香水の匂いに、梅原はしばし呆然とした。
手に握らされた紙に目を遣ると、そこには『九○九号室』とだけ書かれていた。
今夜シンポジウムが終わった後、簡単なパーティーが催される。
英子は家に戻らず、そのままこのホテルに泊まる予定なのだろう。
しかし話をつけるとなればただ事ではない。
英子のことだ。何か梅原への復讐を考えているに違いない。
支店長を同室させて土下座でもさせるのか、或いは弁護士を連れてきて慰謝料を取るつもりか、いずれにしても碌なことではないだろう。
だが梅原とて、ただの加害者ではない。
元を正せば、英子の人を人とも思わぬ侮辱が原因だ。
確かに手を出したことは悪いが、その償いは会社を辞めることで終わっている。
梅原はそう自らを勇気づけると、講演が始まったメイン会場を後にした。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
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一瞬、会場を見回していた英子と目が合った。
慌てて視線を逸らしたが、英子は梅原を見つけるとつかつかと歩み寄ってきた。
(仕返し…か?)
梅原は無意識に身構えた。
英子なら公衆の面前で殴りかかってきても不思議ではない。
しかし英子は梅原の正面に立つと、バックから紙切れを取り出して手渡した。
「きちんと話をつけましょう」
英子はそれだけ言うと、きっと梅原を睨みつけ、踵を返して再び人の輪の中に戻って行った。
英子の去った後、残された甘い香水の匂いに、梅原はしばし呆然とした。
手に握らされた紙に目を遣ると、そこには『九○九号室』とだけ書かれていた。
今夜シンポジウムが終わった後、簡単なパーティーが催される。
英子は家に戻らず、そのままこのホテルに泊まる予定なのだろう。
しかし話をつけるとなればただ事ではない。
英子のことだ。何か梅原への復讐を考えているに違いない。
支店長を同室させて土下座でもさせるのか、或いは弁護士を連れてきて慰謝料を取るつもりか、いずれにしても碌なことではないだろう。
だが梅原とて、ただの加害者ではない。
元を正せば、英子の人を人とも思わぬ侮辱が原因だ。
確かに手を出したことは悪いが、その償いは会社を辞めることで終わっている。
梅原はそう自らを勇気づけると、講演が始まったメイン会場を後にした。
つづく…
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