『捨 て 犬』 第五章
『捨 て 犬』
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(五)
来週、新東京薬品の主催する『小児喘息シンポジウム』が東京で開かれる。
この講演会は、毎年全国から多数の医師を集める一大イベントだった。
今年はそのシンポジウムのパネリストとして、英子を招聘する予定になっていた。
今日のアポイントも、その最終打ち合わせのためだった。
もし臍を曲げて英子が出席しないようなことになれば、会社に大恥をかかせることになるだけでなく、梅原自身の進退問題にまで発展するかもしれない。
英子は視線をカレンダーに向けた。
「確か来週、おたくのシンポジウムに出席することになっていたわね」
「先生、本日はその件でお伺いした次第で」
梅原は内心まずいと思いつつ、英子の顔色を窺った。
「冗談じゃないわよ!こんな非礼を受けて出席しろって言うの?」
「そこを何とか…」
梅原は頭が膝に着かんばかりに謝った。
雪の降りしきるガラス窓に、そのぶざまな五十男の姿が映って見えた。
「ふざけないで頂戴。こんな担当者をよこす製薬会社のシンポジウムなんか、出るだけ時間の無駄よ」
「……」
「全く、いい年をして常識を知らないのね。あなたみたいなMRは会社に迷惑をかけるだけだから、早く辞めた方がいいのよ」
英子は梅原の顔に唾を吐きかけんばかりに毒づいた。
(早く辞めた方がいい)
その言葉だけが耳にこびりついた。
カッと頭が白くなった。
「あっ…!」
梅原の右手が英子の白い頬を打ったのと同時に、英子が短い悲鳴を上げた。
それほど力を入れてはいなかったが、はずみで英子が椅子から転がり落ちた。
梅原は鞄からシンポジウムの案内状を取り出すと、無言のまま机の上に置いた。
食べかけの弁当はコンビニ弁当だった。
それが梅原の胸に突き刺さった。
そして涙目で頬を押さえる英子に深々と頭を下げると、大股で診察室を後にした。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
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この講演会は、毎年全国から多数の医師を集める一大イベントだった。
今年はそのシンポジウムのパネリストとして、英子を招聘する予定になっていた。
今日のアポイントも、その最終打ち合わせのためだった。
もし臍を曲げて英子が出席しないようなことになれば、会社に大恥をかかせることになるだけでなく、梅原自身の進退問題にまで発展するかもしれない。
英子は視線をカレンダーに向けた。
「確か来週、おたくのシンポジウムに出席することになっていたわね」
「先生、本日はその件でお伺いした次第で」
梅原は内心まずいと思いつつ、英子の顔色を窺った。
「冗談じゃないわよ!こんな非礼を受けて出席しろって言うの?」
「そこを何とか…」
梅原は頭が膝に着かんばかりに謝った。
雪の降りしきるガラス窓に、そのぶざまな五十男の姿が映って見えた。
「ふざけないで頂戴。こんな担当者をよこす製薬会社のシンポジウムなんか、出るだけ時間の無駄よ」
「……」
「全く、いい年をして常識を知らないのね。あなたみたいなMRは会社に迷惑をかけるだけだから、早く辞めた方がいいのよ」
英子は梅原の顔に唾を吐きかけんばかりに毒づいた。
(早く辞めた方がいい)
その言葉だけが耳にこびりついた。
カッと頭が白くなった。
「あっ…!」
梅原の右手が英子の白い頬を打ったのと同時に、英子が短い悲鳴を上げた。
それほど力を入れてはいなかったが、はずみで英子が椅子から転がり落ちた。
梅原は鞄からシンポジウムの案内状を取り出すと、無言のまま机の上に置いた。
食べかけの弁当はコンビニ弁当だった。
それが梅原の胸に突き刺さった。
そして涙目で頬を押さえる英子に深々と頭を下げると、大股で診察室を後にした。
つづく…
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