『蟻地獄』 第九章
『蟻地獄』
九
和彦はまじまじと佳美の顔を見つめた。長い睫毛を伏せた佳美は、顔を真っ赤にしてもじもじと膝をくねらせた。
「好きになっちゃったの・・」
「ちょ、ちょっと待って・・俺はもう四十過ぎだよ。こんなオジサンをからかってどうするの?」
ところが佳美は、慌てる和彦を畳へ押し倒すと、腹の上に馬乗りになった。
「本気だもん」
勢いよく服を脱ぎ捨てた佳美は、組み伏せた和彦に熱い口唇を押し当ててきた。
和彦は佳美の魅惑的な肉体に翻弄された。
女から遠ざかってきたが、二十代後半を迎えた旬真っ盛りの女肉は、木石をも蕩かす魔力を秘めていた。
「ど、どうして・・?」
夢かと紛う悦楽の中、和彦は喘ぐ替わりに疑問を訴えた。
「好きだから・・好きになるのに理由なんかないでしょう?」
きっぱりと言い切った佳美は、和彦の腰に跨って激しくヒップを振った。
こうして佳美のペースで恋愛は進み、和彦は狐につままれたまま、結婚へと寄り切られたのだった。
(何故俺を選んだのか・・?)
新婚生活が始まっても、和彦の疑惑は頭から離れることがなかった。
それに拍車をかけたのが佳美の良妻ぶりだった。
「私、専業主婦になるのが夢だったの。早くパパの子供が欲しいなあ」
派手で遊び好きな悪妻だったら、自分を都合よく利用したかったのかと、逆に和彦も納得できたのかもしれない。
ところが佳美は、贅沢は週一回のエステ通いぐらいで、庭の花づくりが趣味の慎ましい生活を好んだ。
ますます佳美への不信は、心の奥深くへ根を張って行くのだった。
つづく…
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
九
和彦はまじまじと佳美の顔を見つめた。長い睫毛を伏せた佳美は、顔を真っ赤にしてもじもじと膝をくねらせた。
「好きになっちゃったの・・」
「ちょ、ちょっと待って・・俺はもう四十過ぎだよ。こんなオジサンをからかってどうするの?」
ところが佳美は、慌てる和彦を畳へ押し倒すと、腹の上に馬乗りになった。
「本気だもん」
勢いよく服を脱ぎ捨てた佳美は、組み伏せた和彦に熱い口唇を押し当ててきた。
和彦は佳美の魅惑的な肉体に翻弄された。
女から遠ざかってきたが、二十代後半を迎えた旬真っ盛りの女肉は、木石をも蕩かす魔力を秘めていた。
「ど、どうして・・?」
夢かと紛う悦楽の中、和彦は喘ぐ替わりに疑問を訴えた。
「好きだから・・好きになるのに理由なんかないでしょう?」
きっぱりと言い切った佳美は、和彦の腰に跨って激しくヒップを振った。
こうして佳美のペースで恋愛は進み、和彦は狐につままれたまま、結婚へと寄り切られたのだった。
(何故俺を選んだのか・・?)
新婚生活が始まっても、和彦の疑惑は頭から離れることがなかった。
それに拍車をかけたのが佳美の良妻ぶりだった。
「私、専業主婦になるのが夢だったの。早くパパの子供が欲しいなあ」
派手で遊び好きな悪妻だったら、自分を都合よく利用したかったのかと、逆に和彦も納得できたのかもしれない。
ところが佳美は、贅沢は週一回のエステ通いぐらいで、庭の花づくりが趣味の慎ましい生活を好んだ。
ますます佳美への不信は、心の奥深くへ根を張って行くのだった。
つづく…
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