『蟻地獄』 第八章
『蟻地獄』
八
記憶が蘇る。
初めて佳美と逢ったのは、業者に接待されて行った銀座の高級クラブだった。
「あまりお話されないんですね?」
ドレス姿の佳美が、居心地が悪そうな和彦に尋ねた。
「申し訳ありません。こういうところにあまり慣れていないもので・・」
「うふふ、捕って食べたりしませんから、ゆっくりと飲んでいただければいいんですよ」
その美しい容貌から、和彦は佳美がこの店のトップだとすぐにわかった。
「あの、私は大した客じゃないから、気にせず他のお客さんのところへ行って下さい」
佳美は一瞬ポカンとしたが、じっと和彦の顔を見つめると大笑いした。
「高山さんって面白い方なんですね!」
すっかり佳美に気に入られた和彦は、それから時々クラブの同伴に誘わるようになった。
ずっと独身で小金を貯えていた和彦は、人助けだと割り切って佳美につきあった。
そして半年経った頃、店がはねた佳美が突然和彦のアパートを訪ねて来た。
「こ、こんな夜更けにどうしたの?」
「高山さん、ちょっと相談があるんだけど・・」
お茶を淹れながら、和彦は住まいを教えてしまったことを後悔した。
若いホステスの相談と言えば、ホストに貢ぐ金の無心に違いない。
ところが佳美は意外なことを言った。
「私ね、もう夜の仕事を辞めようと思っているの」
「・・そうか、好きな男ができたんだな」
和彦は内心ほっとした。
佳美に頼まれて通っていた分不相応なクラブとも、これで縁が切れる。
「うん、私をお嫁さんにしてくれないかしら?」
「・・えっ?」
つづく…
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
八
記憶が蘇る。
初めて佳美と逢ったのは、業者に接待されて行った銀座の高級クラブだった。
「あまりお話されないんですね?」
ドレス姿の佳美が、居心地が悪そうな和彦に尋ねた。
「申し訳ありません。こういうところにあまり慣れていないもので・・」
「うふふ、捕って食べたりしませんから、ゆっくりと飲んでいただければいいんですよ」
その美しい容貌から、和彦は佳美がこの店のトップだとすぐにわかった。
「あの、私は大した客じゃないから、気にせず他のお客さんのところへ行って下さい」
佳美は一瞬ポカンとしたが、じっと和彦の顔を見つめると大笑いした。
「高山さんって面白い方なんですね!」
すっかり佳美に気に入られた和彦は、それから時々クラブの同伴に誘わるようになった。
ずっと独身で小金を貯えていた和彦は、人助けだと割り切って佳美につきあった。
そして半年経った頃、店がはねた佳美が突然和彦のアパートを訪ねて来た。
「こ、こんな夜更けにどうしたの?」
「高山さん、ちょっと相談があるんだけど・・」
お茶を淹れながら、和彦は住まいを教えてしまったことを後悔した。
若いホステスの相談と言えば、ホストに貢ぐ金の無心に違いない。
ところが佳美は意外なことを言った。
「私ね、もう夜の仕事を辞めようと思っているの」
「・・そうか、好きな男ができたんだな」
和彦は内心ほっとした。
佳美に頼まれて通っていた分不相応なクラブとも、これで縁が切れる。
「うん、私をお嫁さんにしてくれないかしら?」
「・・えっ?」
つづく…
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