『蟻地獄』 第四章
『蟻地獄』
四
黒い愉悦が湧き上がる。
深い絶望に心を苛まれながら、嫉妬と言う悦楽の蟻地獄へ体が引きずり込まれる。
ひと度足を取られれば、いくらもがいても、さらさらと崩れる砂の壁を這い上がることはできない。
(もう誰も、誰も信じられない・・自分すらも・・)
秘めやかな由香の喘ぎ声を洩れ聞きながら、傷心に逆らう肉茎を罰するように激しくしごいた。
(・・・・)
ふと高山和彦は我に返った。
けたたましく電話が目の前で鳴り響いている。
「はい、関東飲料、総務部です」
電話に応対しながら、昼食後、和彦は居眠りしていたことに気づいた。
電話は自販機の飲料が売切れていると言うクレームだった。
和彦は所轄の営業所へ連絡すると、顔を洗いにトイレへ向かった。
このところ残業が続いている。
(疲れているのかな・・厭な夢だった)
清涼飲料水の自販機ビジネスを展開する関東飲料にとって、夏場は戦場にも似た書入れ時である。
暑さで自販機の売切れランプが続出し、本社総務部では昼夜なくクレームの対応に追われていた。
トイレへ行く途中、和彦は給湯室の前を横切ろうとした。
「ねえ、聞いた?」
「何よ、また川崎君の話?」
女性事務員が二人、川崎翔太の噂話に花を咲かせている。
川崎は二十六歳。
今春から和彦の部下として、同じ総務部でお客様対応の仕事をしている。
母性をくすぐるあどけない顔立ちだが、仕事については優秀で、和彦も将来を嘱望する若者だった。
またプライベートでも、川崎と親しいつきあいをしていた。
和彦の趣味であるラジコン・ヘリに興味があるらしく、独身の川崎はそれを口実に、妻の手料理をたかりによく高山家へ遊びに来た。
つづく…
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
四
黒い愉悦が湧き上がる。
深い絶望に心を苛まれながら、嫉妬と言う悦楽の蟻地獄へ体が引きずり込まれる。
ひと度足を取られれば、いくらもがいても、さらさらと崩れる砂の壁を這い上がることはできない。
(もう誰も、誰も信じられない・・自分すらも・・)
秘めやかな由香の喘ぎ声を洩れ聞きながら、傷心に逆らう肉茎を罰するように激しくしごいた。
(・・・・)
ふと高山和彦は我に返った。
けたたましく電話が目の前で鳴り響いている。
「はい、関東飲料、総務部です」
電話に応対しながら、昼食後、和彦は居眠りしていたことに気づいた。
電話は自販機の飲料が売切れていると言うクレームだった。
和彦は所轄の営業所へ連絡すると、顔を洗いにトイレへ向かった。
このところ残業が続いている。
(疲れているのかな・・厭な夢だった)
清涼飲料水の自販機ビジネスを展開する関東飲料にとって、夏場は戦場にも似た書入れ時である。
暑さで自販機の売切れランプが続出し、本社総務部では昼夜なくクレームの対応に追われていた。
トイレへ行く途中、和彦は給湯室の前を横切ろうとした。
「ねえ、聞いた?」
「何よ、また川崎君の話?」
女性事務員が二人、川崎翔太の噂話に花を咲かせている。
川崎は二十六歳。
今春から和彦の部下として、同じ総務部でお客様対応の仕事をしている。
母性をくすぐるあどけない顔立ちだが、仕事については優秀で、和彦も将来を嘱望する若者だった。
またプライベートでも、川崎と親しいつきあいをしていた。
和彦の趣味であるラジコン・ヘリに興味があるらしく、独身の川崎はそれを口実に、妻の手料理をたかりによく高山家へ遊びに来た。
つづく…
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