『捨 て 犬』 第十一章
『捨 て 犬』
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(十一 )
医師として、経営者として、男勝りな気丈さで世を渡る英子は、日々相当なプレッシャーを背負って暮らしているに違いない。
患者は勿論、いつも周囲から頼られるばかりで、心が休まるゆとりもないだろう。
しかも英子には頼って甘えられる相手がおらず、ストレスのはけ口はヒステリー以外にないのかもしれない。
おんぶに抱っこの年若いヒモ亭主では、疲れ果てた心を癒すどころか、英子のストレスを増やすだけなのだろう。
(無理をしていたのか)
梅原は英子を哀れに思った。
MRたちにかじずかれる女傑も、一皮剥けばどこにでもいる弱い女なのだ。
世の中のしがらみを忘れて、強い男の胸で甘えたい夜もあるだろう。
英子は泣きはらした目で、人見知りする童女のように梅原を見上げた。
「あなたが欲しかったの…」
そう小さく呟いた英子は、飼い主の膝の上で戯れる子猫のように、梅原の胸に体をすり寄せてきた。
「いや、俺は強い男では…」
梅原は英子の勘違いを正そうとした。
あの雪の日に平手打ちしたのは、感情が抑えきれなかっただけだ。
女に暴力を振るうのは、それこそ弱い男の証だ。
「ううん、こんな私を叱ってくれる人は、あなたしかいないわ…」
英子はしおらしく顔を胸に埋めた。
梅原はその少女のような仕草を見て、いとおしさで胸が熱くなるのを覚えた。
誰も頼れない英子。
そして誰からも頼られない梅原。
考えてみれば二人とも、孤独の影に怯える似た者同士ではないか。
今宵一夜だけ、お互いの傷口を舐め合って、痛みを忘れてしまうのも悪くない。
梅原は英子を仰向けに横たえると、ゆっくりとバスローブの紐を解き始めた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
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医師として、経営者として、男勝りな気丈さで世を渡る英子は、日々相当なプレッシャーを背負って暮らしているに違いない。
患者は勿論、いつも周囲から頼られるばかりで、心が休まるゆとりもないだろう。
しかも英子には頼って甘えられる相手がおらず、ストレスのはけ口はヒステリー以外にないのかもしれない。
おんぶに抱っこの年若いヒモ亭主では、疲れ果てた心を癒すどころか、英子のストレスを増やすだけなのだろう。
(無理をしていたのか)
梅原は英子を哀れに思った。
MRたちにかじずかれる女傑も、一皮剥けばどこにでもいる弱い女なのだ。
世の中のしがらみを忘れて、強い男の胸で甘えたい夜もあるだろう。
英子は泣きはらした目で、人見知りする童女のように梅原を見上げた。
「あなたが欲しかったの…」
そう小さく呟いた英子は、飼い主の膝の上で戯れる子猫のように、梅原の胸に体をすり寄せてきた。
「いや、俺は強い男では…」
梅原は英子の勘違いを正そうとした。
あの雪の日に平手打ちしたのは、感情が抑えきれなかっただけだ。
女に暴力を振るうのは、それこそ弱い男の証だ。
「ううん、こんな私を叱ってくれる人は、あなたしかいないわ…」
英子はしおらしく顔を胸に埋めた。
梅原はその少女のような仕草を見て、いとおしさで胸が熱くなるのを覚えた。
誰も頼れない英子。
そして誰からも頼られない梅原。
考えてみれば二人とも、孤独の影に怯える似た者同士ではないか。
今宵一夜だけ、お互いの傷口を舐め合って、痛みを忘れてしまうのも悪くない。
梅原は英子を仰向けに横たえると、ゆっくりとバスローブの紐を解き始めた。
つづく…
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