『独りぼっちの部屋』・・・第十七章
『独りぼっちの部屋』
第十七章
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暗い灰色の雲が垂れ込めた梅雨空。
玄関脇の紫陽花が絹糸のような雨に濡れている。
ポツ・・ポツ・・
手鞠に似た赤紫色の花から落ちた水玉が、光沢のある濃緑色の葉をコクンと揺らす。
そんな小さなざわめきが集まり、紫陽花が雨音にコーラスしている。
古河家の玄関で小枝子が尋ねた。
「あなた、駅まで車で送りましょうか?」
「いや・・歩いて行くよ」
傘を差した隆正は、広い庭を抜けて門へと向かった。
不安そうな顔をした小枝子が見送りについてきた。
「このところ休日出勤が多いですね」
「ああ、そろそろ株主総会も近いからね」
隆正は気もそぞろに答えると、小枝子を振り返ることなく門を出た。
もちろん嘘だった。
今日も会社へ行くふりをして、F町のアパートで一日を過ごすつもりでいた。
(このまま二重生活を続けていても・・)
まだ隆正は離婚を切り出せずにいた。
家柄にしても性の不一致にしても、すべて隆正に鬱積した心の捩れで、無垢な小枝子には何の罪もなかった。
通勤に使う駅への道から反れて、隆正はF町へ通じる長い坂道を下った。
ドブ川にかかる橋を渡り、色とりどりの傘が行き交う商店街を歩いていく。
「こんにちは」
不意に背後から隆正は声をかけられた。
振り返ると、先日隣室の大学生を訪ねて来た人妻がいた。
「あ、ああ・・どうも」
隆正は気まずそうに返事をした。
堂々と挨拶すればいいのだが、生々しい情事を盗み聞きした負い目があった。
つづく…
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玄関脇の紫陽花が絹糸のような雨に濡れている。
ポツ・・ポツ・・
手鞠に似た赤紫色の花から落ちた水玉が、光沢のある濃緑色の葉をコクンと揺らす。
そんな小さなざわめきが集まり、紫陽花が雨音にコーラスしている。
古河家の玄関で小枝子が尋ねた。
「あなた、駅まで車で送りましょうか?」
「いや・・歩いて行くよ」
傘を差した隆正は、広い庭を抜けて門へと向かった。
不安そうな顔をした小枝子が見送りについてきた。
「このところ休日出勤が多いですね」
「ああ、そろそろ株主総会も近いからね」
隆正は気もそぞろに答えると、小枝子を振り返ることなく門を出た。
もちろん嘘だった。
今日も会社へ行くふりをして、F町のアパートで一日を過ごすつもりでいた。
(このまま二重生活を続けていても・・)
まだ隆正は離婚を切り出せずにいた。
家柄にしても性の不一致にしても、すべて隆正に鬱積した心の捩れで、無垢な小枝子には何の罪もなかった。
通勤に使う駅への道から反れて、隆正はF町へ通じる長い坂道を下った。
ドブ川にかかる橋を渡り、色とりどりの傘が行き交う商店街を歩いていく。
「こんにちは」
不意に背後から隆正は声をかけられた。
振り返ると、先日隣室の大学生を訪ねて来た人妻がいた。
「あ、ああ・・どうも」
隆正は気まずそうに返事をした。
堂々と挨拶すればいいのだが、生々しい情事を盗み聞きした負い目があった。
つづく…
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