小説「懺悔」 第四章・・・
『懺 悔』 紅殻格子
四.
狂っています。
実の母親が息子の性器をくわえさせられているのです。
もう人間ではありません。獣です。いえ、獣以下かもしれません。
主人への意趣返しに私が犯した不倫の代償は、息子智彦の性奴隷に貶められることでした。
でも智彦に罪はありません。
私が悪いのです。私が愚かな母親だったのです。
社長との不倫は、すぐに奥様の知るところとなりました。
奥様は社長を奪った私への復讐に、最も恐ろしく卑劣な制裁を下したのです。
いつものように社長とラブホテルで愛し合った後のことでした。
ベンツでホテルを出ると、正面から自転車が走って来たのです。
智彦でした。私は驚き慌てて顔を伏せましたが、しっかりと智彦と目が合ってしまいました。
その時の顔が今も忘れられません。
まるで死神に魂を抜かれたように、智彦はただ呆然として私を見ていたのです。
息子に母の浮気現場を見せる――それが奥様の復讐でした。
奥様は親しい社員に社長と私の行動を見張らせていました。
いつもの通りラブホテルで密会するのを見計らい、
私の名前を出して智彦を呼び出しました。
そして携帯で連絡を取りながら、私達が車で駐車場から出るところを鉢合わせさせたのです。
情事、それも家族を裏切る背徳の情事を、
息子に知られた惨めさを想像できるでしょうか。
確かに悪いのは私です。でもあまりにも残酷過ぎる仕打ちです。
その夜、智彦は私に暴力をふるいました。
私は顔が腫れ上がるぐらい叩かれました。でも智彦も泣いていました。
叩かれる私よりも、智彦が受けた傷の方が痛かったに違いありません。
信じていた実の母が、自分を育くむ家庭を壊しかねない裏切りをしていたのです。
淫欲の誘惑に負け、私が母であることをやめたと思ったのでしょう。
翌日から智彦は自分の部屋に引きこもりがちになりました。
朝、学校へは行くものの、帰って来てからはずっと部屋から出てきません。
食事は私が部屋の前まで運びます。衣類や洗濯物も部屋の前に置くようになりました。
細々とした日用品が必要な時は、紙に書いてドアに貼り出すのです。
ところが単身赴任の貴彦が帰ってくる休日になると、
智彦は何事もなかったように明るく振舞いました。
私を庇ってくれているのか、智彦は不倫していたことを一切口にしません。
それは今も変わりません。
でもそれが却って針の筵に座らされているようで、私は心苦しくて仕方ありませんでした。
私は何度も謝り、部屋から出て来てくれるように説得しました。
もちろんすぐに会社も辞め、社長との関係も断ち切りました。
でも智彦は応じてくれませんでした。
母親に裏切られた息子の苦しみを思うと、
私もただ胸を痛めて見守ることしかできませんでした。
明るい笑顔を見せる智彦は戻ってきませんでした。
智彦の性格を暗く捻じ曲げてしまったのは私の責任です。
主人に相談もできず、私は鬱々と後悔と懺悔の日々を送るようになったのです。
つづく・・・