『独りぼっちの部屋』…第一章
※母の浮気現場に遭遇した少年は、性への罪悪感を深く心に刻んで成長した。
貧しさを克服して逆玉の輿に乗ったが、心の暗部が決して癒されることはなかった。
「俺の居場所は・・・」
身の置きどころがない男は、全てを捨てて安住の地を捜しに街をさまよった。
『独りぼっちの部屋』
第一章
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昭和四十年代後半。
田中角栄が首相に就任し、日本中は列島改造論ブームで沸き立っていた。
その秋には、日中国交回復で贈られたパンダに、大人も子供も競って長蛇の列をつくった。
そんな浮かれた世相とは無縁に、ここ横浜港に程近い下町では、終戦直後と変わらぬ倹しい生活が営まれていた。
港湾労働者の街。
経済成長の恩恵に与れなかった人々が、パンダの檻より狭い部屋で、日々の生業に慌しく追い立てられていた。
夕焼け空の下、少年はランドセルを背負って家路を急いだ。
学校の帰りに空き地で野球に誘われ、母と約束した門限の五時を過ぎていたからだ。
風呂屋の角を曲がると、人がやっと行き違える狭い路地が続く。
野良猫の小便臭い路地裏には、板壁やトタンで覆われたあばら家がひしめき建つ。
庭のある家はほとんどなく、連なった低い軒先には、貧弱な秋花をつけた植木鉢が並んでいる。
その袋小路に、朽ち果てそうな木造アパートがあった。
少年は安普請の格子戸をガラガラと開けた。
玄関には住人共用の下駄箱が置かれ、一階が大家の住居、二階には貸間が二部屋設えてあった。
階段を上がると、店子用の炊事場とトイレがあり、安っぽいベニヤ板でできた戸が二枚並んでいる。
手前が少年の家族が暮らす部屋で、奥には遊び人風の若いバンドマンが住んでいた。
少年は戸を開けた。
「ただいま」
返事はなかった。
少年はランドセルを押入れへ放り込むと、誰もいない部屋をぼんやりと見渡した。
六畳一間の部屋。
その半分は、雑然と溢れ返った家財道具に占拠されている。
残った僅か三畳あまりの空間に、古びた丸い卓袱台がぽつんと置かれていた。
つづく…
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