『不如帰』・・・第三章
『不 如 帰』 (永遠の嘘)
長年に亘り妻を苦しめてきた夫の裏切り行為に対し、
執念の復讐が実行に移される時がきた。
だが妻の復讐心を覆す衝撃の真実が今、明かされる。
第三章
上半身を起こした克哉は、勇輝の顔を見てうっすらと涙を浮かべた。
克哉にとって勇輝は人生そのものだった。
持てるすべてを勇輝に注いだと言っても過言ではない。
会社を万年課長で終えたのも、自分の出世よりも勇輝の教育を選んだからだった。
孟母三遷の教えとは逆に、勇輝を中高一貫の進学校へ通わせるため、栄転話を拒んだのも一度や二度ではなかった。
死期を悟った克哉は、毎日病床で勇輝の話ばかり繰り返した。
まるで自慢の作品を誇るかのように、勇輝との思い出を佳珠子に何度も語って聞かせた。
たまに勇輝が見舞いに来ると、普段は無愛想な顔に満面の笑みを浮かべて喜んだ。
父と子の会話を聞きながら、佳珠子はにんまりとほくそ笑んだ。
この勇輝こそが復讐の劇薬だった。
たった一言でいい。
(勇輝はあなたの子供じゃないの)
そう耳元で囁くだけで、一人息子に心血を注いできた克哉は、悶え死ぬほどの懊悩に苛まれるだろう。
それも死を前にして、積み重ねてきた人生が、ガラガラと音を立てて崩れ去るのを知るだろう。
目を虚ろに見開き、口唇を戦慄かせる克哉の表情が目に浮かぶ。
その苦悶こそが、澱のように沈んだ佳珠子の怨嗟を晴らしてくれるのだ。
克哉への死の執行は、病魔によってではなく、佳珠子の一言によって下されるべきなのだ。
佳珠子は屈辱の半生を振り返った。
(あの夜からもう三十年が経つ・・)
劇薬は死の間際にこそ著効がある。
若くして使えは、すぐに離婚されて他に子供を作られてしまうからだ。
だから復讐劇の幕が上がるこの日まで、プライドを傷つけられても、淫乱女と蔑まれても、佳珠子はひたすらじっと堪え忍んできたのだ。
夕陽は明るさを失いつつあった。
茜色に溢れていた病室は、ゆっくりと地の底へ沈んでいくように、暗い闇が支配しようとしていた。
つづく…
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執念の復讐が実行に移される時がきた。
だが妻の復讐心を覆す衝撃の真実が今、明かされる。
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上半身を起こした克哉は、勇輝の顔を見てうっすらと涙を浮かべた。
克哉にとって勇輝は人生そのものだった。
持てるすべてを勇輝に注いだと言っても過言ではない。
会社を万年課長で終えたのも、自分の出世よりも勇輝の教育を選んだからだった。
孟母三遷の教えとは逆に、勇輝を中高一貫の進学校へ通わせるため、栄転話を拒んだのも一度や二度ではなかった。
死期を悟った克哉は、毎日病床で勇輝の話ばかり繰り返した。
まるで自慢の作品を誇るかのように、勇輝との思い出を佳珠子に何度も語って聞かせた。
たまに勇輝が見舞いに来ると、普段は無愛想な顔に満面の笑みを浮かべて喜んだ。
父と子の会話を聞きながら、佳珠子はにんまりとほくそ笑んだ。
この勇輝こそが復讐の劇薬だった。
たった一言でいい。
(勇輝はあなたの子供じゃないの)
そう耳元で囁くだけで、一人息子に心血を注いできた克哉は、悶え死ぬほどの懊悩に苛まれるだろう。
それも死を前にして、積み重ねてきた人生が、ガラガラと音を立てて崩れ去るのを知るだろう。
目を虚ろに見開き、口唇を戦慄かせる克哉の表情が目に浮かぶ。
その苦悶こそが、澱のように沈んだ佳珠子の怨嗟を晴らしてくれるのだ。
克哉への死の執行は、病魔によってではなく、佳珠子の一言によって下されるべきなのだ。
佳珠子は屈辱の半生を振り返った。
(あの夜からもう三十年が経つ・・)
劇薬は死の間際にこそ著効がある。
若くして使えは、すぐに離婚されて他に子供を作られてしまうからだ。
だから復讐劇の幕が上がるこの日まで、プライドを傷つけられても、淫乱女と蔑まれても、佳珠子はひたすらじっと堪え忍んできたのだ。
夕陽は明るさを失いつつあった。
茜色に溢れていた病室は、ゆっくりと地の底へ沈んでいくように、暗い闇が支配しようとしていた。
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