童話『プリン』・・・第三十章
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、
椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
第三十章
洋士はプリンの写真を見た。
プリンが畠山に顔をすりよせ、仲良く並んで写っている。
「畠山さん、プリンを大切に面倒みて下さったんですね」
「・・申し訳ないことです。あなたが大切に育てたタロウを殺してしまって・・」
皺だらけの顔をくしゃくしゃにして、畠山は涙をこぼして頭を下げた。
「いえ、プリンは幸せだったと思います。この写真と馬房を見ればわかります。きっと子供たちと遊べて、プリンは毎日が楽しかったはずです。ありがとうございました」
洋士も、プリンをかわいがってくれた畠山に頭を下げた。
皐月賞馬の哀れな死――競馬ファンからすれば、それは新聞に書かれた通りだろう。
だがプリンは、たくさんの子供たちに囲まれて幸せだったに違いない。
大人を乗せる乗馬は嫌でも、子供が集まる観光牧場では、牧場で洋士と一緒にいた日々を思い出していたに違いない。
東京へ戻る列車に、洋士と清美は乗っていた。
二人はずっと黙ったまま、夕陽に染まる海を車窓から眺めていた。
洋士は、畠山からもらったプリンのたてがみをにぎりしめた。
「・・大学を卒業したら、日へ帰ろうと思うんだ」
「牧場を継ぐの?」
「うん、引退したプリンの子を探して、かわいい孫を育ててみたくなった」
「いいわね、私も協力してあげる」
洋士と清美は遠く空へ目をやった。
茜色に輝く湧きあがった雲が、栗毛だったプリンの横顔のように見えた。
つづく・・・
『妄想の囲炉裏端・・・紅殻格子呟き日記』
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