『喝采』・・・最終章
『喝 采』 ・・・作品紹介・・・
「ママさん社長」として世間の喝采を浴びる美咲。
だが実態は、大手企業を率いる御曹司に惹かれて愛人となり、夫と子供を裏切って手にした社長の地位だった。
順風満帆な美咲だが、頼りにしていた御曹司から会社への融資を断られ・・・
第二十九章
家に戻った美咲に弘明は何も言わなかった。
美咲がそうしたいならそれでいいと呟いただけだった。
美咲はこのまま専業主婦に収まれるのか不安を感じた。
華やかな世界に未練はあったし、平凡な夫とあと三十年暮らしていけるか自信がなかったからだ。
早春の花々に埋もれて家族で弁当を食べていると、不意に立派なカメラを担いだ男達が近づいてきた。
「三浦さん、やはりここでしたか」
「やあ、大森さんと戸部さん」
二人は弘明の鉄道仲間だった。
やはり弘明と同様、花畑を走るSLを狙いに来たらしい。
大森がじっと美咲の顔を見つめた。
「奥さん、写真で見るよりやはり実物の方がお美しいですね」
「え、写真?」
「あれ、ご存知ないんですか? 三浦さんも照れ屋だな」
大森はごそごそと鞄の中を掻き回すと、鉄道専門の月刊誌を取り出して捲った。
「あっ」
写真コンテストのページに、弘明の写真が特賞として大きく載っていた。
鉄道博物館で大志と撮った写真だった。
キハ11を背景に、美咲と大志がアップで映っていた。
「・・これが私?」
思わず美咲は我が目を疑った。
テレビや雑誌に映る経営者の顔とは、まったく別人の優しい表情をしていた。
大志を後ろから抱き締めてうっとり微笑んだ顔は、永遠に変ることのない慈母の愛しみを湛えていた。
蕩けてしまうほど幸福に満ち足りた美しさがそこにあった。
美咲は弘明を見た。
「あなた・・」
「・・うん、僕はその笑顔が一番いいと思う」
照れながらそれだけ言い残すと、弘明はカメラを持って大森と戸部の後を追って行った。
弘明は知っていた。
誰よりも本当の美咲を知っていたのだ。
遠くで汽笛が聞こえた。
柔らかい春の陽射しにほころんだ花々が、美咲に小さな喝采を送っているようだった。
――閉幕――
『不如帰~永遠の嘘』『色褪せぬ薔薇』 携帯小説サイト配信情報
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「ママさん社長」として世間の喝采を浴びる美咲。
だが実態は、大手企業を率いる御曹司に惹かれて愛人となり、夫と子供を裏切って手にした社長の地位だった。
順風満帆な美咲だが、頼りにしていた御曹司から会社への融資を断られ・・・
第二十九章
家に戻った美咲に弘明は何も言わなかった。
美咲がそうしたいならそれでいいと呟いただけだった。
美咲はこのまま専業主婦に収まれるのか不安を感じた。
華やかな世界に未練はあったし、平凡な夫とあと三十年暮らしていけるか自信がなかったからだ。
早春の花々に埋もれて家族で弁当を食べていると、不意に立派なカメラを担いだ男達が近づいてきた。
「三浦さん、やはりここでしたか」
「やあ、大森さんと戸部さん」
二人は弘明の鉄道仲間だった。
やはり弘明と同様、花畑を走るSLを狙いに来たらしい。
大森がじっと美咲の顔を見つめた。
「奥さん、写真で見るよりやはり実物の方がお美しいですね」
「え、写真?」
「あれ、ご存知ないんですか? 三浦さんも照れ屋だな」
大森はごそごそと鞄の中を掻き回すと、鉄道専門の月刊誌を取り出して捲った。
「あっ」
写真コンテストのページに、弘明の写真が特賞として大きく載っていた。
鉄道博物館で大志と撮った写真だった。
キハ11を背景に、美咲と大志がアップで映っていた。
「・・これが私?」
思わず美咲は我が目を疑った。
テレビや雑誌に映る経営者の顔とは、まったく別人の優しい表情をしていた。
大志を後ろから抱き締めてうっとり微笑んだ顔は、永遠に変ることのない慈母の愛しみを湛えていた。
蕩けてしまうほど幸福に満ち足りた美しさがそこにあった。
美咲は弘明を見た。
「あなた・・」
「・・うん、僕はその笑顔が一番いいと思う」
照れながらそれだけ言い残すと、弘明はカメラを持って大森と戸部の後を追って行った。
弘明は知っていた。
誰よりも本当の美咲を知っていたのだ。
遠くで汽笛が聞こえた。
柔らかい春の陽射しにほころんだ花々が、美咲に小さな喝采を送っているようだった。
――閉幕――
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