紅殻島(べんがらじま)・・・最終章
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『 紅 殻 島 』
三十一.
翌朝、紅殻島は雲ひとつない快晴に恵まれた。
雛子は野辺に咲く花を摘んで、紅殻島の中腹にある墓地へ向かった。
海を見下ろす丘には、島民達の墓の横に、苔むした小さな墓碑がひっそり立っている。
島で行き倒れた売春婦達の墓だった。
雛子は花を手向けると、身を屈めて墓碑に冥福を祈った。
女達の運命を雛子は想った。
借金で売られてきた女。
売春でしか生きられない女。
世間から追い出されて居場所を失った女。
海によって隔離された島は、遥か江戸の昔から、悲惨な女達の血を吸って生き延びてきたのかもしれない。
朝日に輝く海を渡船が本土へ渡って行く。
あの船に伊勢は乗っているのだろうか。
雛子は小さく微笑んだ。
英生は五年間の結婚生活で渡り切れる男ではなかった。
対岸が見えぬ大海だった。
英生は雛子に一生をかけて見る夢を与えてくれたのかもしれない。
売春婦達が眠る墓碑の陰に、小さな菫が一輪咲いていた。
誰の目にも触れず、薄紫色の菫はひっそりと花弁を俯かせている。
それでいい。
誰からも称えられずとも、花は己のために美しい花弁を開くのだ。
菫の花言葉は一途な愛。
売春婦の一途な愛。
おそらく雛子の人生も、理解されることなく幕を閉じていくのだろう。
「あなた・・」
雛子はそっと菫の花を手で翳した。
ぬくもりが残る掌の中で、菫の花は小さくこくりと頷いた。
――閉幕――
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