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 「男の居場所」 第十三章・・・(紅殻格子)

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           「男の居場所」

十三・

水上が内勤の日、珍しく経理課長の板橋が昼飯へ行こうと誘いに来た。
会社から少し離れた定食屋の座敷は、時間が早いせいか、水上と板橋の他には誰もいなかった。
板橋は煙草を取り出して火をつけた。

「一ヶ月前は支店長とぶつかって落ち込んでいたけど、最近はふっきれたように顔が明るいじゃないか」

「いや、仕事の上では相変わらずだ。あの時以来、支店長は俺を目の敵にしている」

「会社の他に楽しみでもできたのか」

「・・・うむ、そんなところかな」

美奈の愛くるしい笑顔を思い浮かべ、水上は独り口元を弛めた。
あの夜から、水上と美奈は週一ぐらいのペースで逢瀬を続けている。

密会の場所と時間は、その日の朝、美奈がメールで知らせてくる。
そして会社が終った後、一緒に食事をしてからラブホテルへ向かう。

今夜も美奈と会う約束になっていた。
今や美奈だけが水上の生きがいだった。
娘ほどの若い肉体は、老いた水上に鮮烈な悦楽を蘇られてくれた。

否、セックスだけではない。
美奈がいてくれるだけで、水上は虚ろな心の隙間を埋めることができた。

仕事中も、独りでアパートにいる時も、考えることは美奈のことばかりだった。
それは若い頃にも経験したことがない、一途で純粋な恋心だった。
板橋は灰皿に煙草を押し消した。

「水上、お前、この一ヶ月、金遣いが荒過ぎないか?」

「どういうことだ?」

「支店長はまだ気がついていないようだが、長年経理で飯を食ってきた俺の目はごまかせないぞ」

「・・・・・・・・」

今度は水上が煙草に火をつける番だった。

「水上、今月だけで二十万円近い商品券を使っているだろう」

「そ、それは、代理店幹部の昇進や、祝い事が重なったからだ」

「そう言うと思ったよ。商品券は経理にとっても一番やっかいな代物だ。商品券を買った領収書は残っ
ても、それを得意先に渡した証拠が残らないからな。社員が嘘をついてこっそり懐に入れたり、金券ショップで換金したりしてもわからないんだ」

「お、俺を疑っているのか?」

「いや、商品券の社内不正の温床になりやすいと言っているだけだ」

二人の間に気まずい沈黙が訪れた。
板橋の鋭い視線が水上の顔に注がれている。

堪らず水上は板橋から目を逸らせ、吸っていた煙草を灰皿に揉み消した。
水上は板橋の勘の良さに舌を巻いた。

美奈と会うたび、水上は小遣いを渡していた。
勿論、美奈は面と向かって金をくれとは言わない。

ただベッドの上で、流行の服が欲しいとか海外旅行に行きたいと甘える。
水上も嫌な気はしなかった。

金のこととは言え、美奈に甘えられるのは嬉しかったし、中年男につきあってくれる感謝を形にしたかった。

しかし水上とて東京には家族がある。
しかも家のローンと子供たちの養育費で、まだまだ金に余裕があるわけではない。

「商品券って金券ショップでお金に替えてくれるらしいよ」

会話の中で、美奈が何気なく言ったことがヒントとなった。
会社への忠誠心を失った水上は、すぐにそれを実行に移した。

注文した定食が運ばれてきた。
湯気の立つ味噌汁を前にして、水上も板橋も箸を手に取ろうともしなかった。

「同僚として、もうひとつ忠告しておく。会社を辞めたお前の前任者のことだ」

板橋は冷たい目で水上を睨んだまま、ぽつりぽつりと話し始めた。

つづく・・・

・・・・・・ お知らせ ・・・・・

『色褪せぬ薔薇』携帯小説サイトにて配信中です。

『色褪せぬ薔薇』 作品紹介・・・・
(電子書籍「遊スタ」より引用)
※ 来年60歳になる秀明は住宅用建材メーカーの重役で、25年前は仙台支社にて営業をしていた。単身赴任で仙台にやってきた秀明は、やがて同僚の葉子と社内不倫の関係を持つようになり、夜毎、互いに体を貪り合い、熱い情事を繰り返した。 だが、秀明が東京の本社へと戻ったことをきっかけに、ふたりは別れ離れになってしまう。 久しぶりに、仙台を訪れた秀明は、彼女に会うことにするが、そこで部下から知らされた葉子の衝撃的な事実とは? 
愛に包まれた感動のエピローグに乞うご期待!※

閲覧方法・・・

「どこでも読書」
「どこでも読書」TOP上段にあります総合検索にて「小説」→ジャンル「ハードロマン」↓「色褪せぬ薔薇」と検索いただくか?もしくは著者名にて「降矢木士朗」(ふりやぎしろう)と検索いただければご覧頂けます。

電子書籍「遊スタ」←携帯電話でご覧頂いている方は、そのままクリックでお入りいだだけます。

パソコンでご覧頂いている方には、大変、申し訳ありませんが
電子書籍「遊スタ」は携帯電話からでないと入れません。
お手数ですが携帯電話にて「遊スタ」→カテゴリ「官能小説」→「色褪せぬ薔薇」と検索してください。

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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

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