小説「内助の功」第八章・・・(紅殻格子)
※小説を読まれる方へ・・・
更新記事は新着順に表示されますので小説を最初から順追って
お読みになりたい方は、左のカテゴリー(各小説)を選択していただければ
第一章からお読みいただけるようになっております ※
更新記事は新着順に表示されますので小説を最初から順追って
お読みになりたい方は、左のカテゴリー(各小説)を選択していただければ
第一章からお読みいただけるようになっております ※
「内助の功」 紅殻格子
八
伊豆。
初夏の陽射しが降り注ぐ海岸沿いの道を、
裕一は窓を全開にして車を走らせていた。
街中を離れて磯の香りが強くなると、
小さな入り江に面した豪勢なリゾート・マンションが見えてきた。
「ここが約束の場所か」
高まる緊張を誤魔化すように、裕一はわざと大きな声で自分に言い聞かせた。
岩井社長の還暦パーティーの翌日、会社のパソコンに美紀からメールが届いた。
都心のホテルでは人目につきやすいので、社長が北海道へ出張する休日、
この別荘で会いたいと書かれていた。
裕一に異存はなかった。早紀にはゴルフだと嘘をついて早朝家を出た裕一は、
途中時間を潰して昼過ぎ伊豆に入ったのだった。
裕一は用意してきたサングラスをかけ、周囲に気を配りながら、
指定された部屋の呼び鈴を押した。
女の声がして細めにドアが開いた。
「お入り下さい」
淡いブルー色のワンピースに身を包んだ美紀が、
伏し目がちに裕一を招き入れた。
しばらく裕一は玄関に立ったまま、マンションの中の様子を窺った。
「お、奥さん一人だろうね」
「ええ。そうでなければ、わざわざ伊豆までお呼びする必要はありませんわ」
裕一はそれも道理だと思い、案内されたリビングへ歩みを進めた。
三十畳近くあるリビングは開放的で、白を基調にした部屋は、
ソファやテーブル、家具調度がセンス良く配されている。
そして大きく開いた窓の外には、群青色の海原が全面に広がっていた。
裕一はもつれた足取りで、ソファへ崩れるように腰かけた。
心拍数はゆうに百を超えているだろう。
(いよいよだ)
つづく・・・