『人外境の花嫁』五.秘苑の懊悩者(四)
『人外境の花嫁』
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五.秘苑の懊悩者 (四)
月絵はソファに座ると、手酌で飲んでいた金治に徳利を傾けた。
「お前がお酌してくれるなんて珍しいな。小遣いが足りなくなったのか?」
「・・そんなことないよ」
月絵が目を伏せて首を横に振ると、小さく頷いた金治は戸棚のお猪口を探した。
「そうか・・お前も少し飲むか?」
「うん、ちょっとだけ」
冷の日本酒をお猪口に受けると、月絵はその滑らかな白磁にそっと口唇をつけた。
金治はぽっと頬を染める月絵を見て、初めてこの家へ連れて来られた幼い頃を思い返していた。
月絵は孤児だった。
物心ついた時から、金治と亡くなった養母の実子でないことを薄々感じていたようだ。
だが幼心に、真実を聞いたら養父母が悲しむと黙っていたのだろう。
昨日のことのようだ。
中学で反抗期を迎えた月絵は己の出生に悩んで金治を責めた。
月絵を実の子供以上に愛していた金治は、香具師の大親分らしくもなく、目に涙を溜めながら実母のことを話してやった。
月絵の母は、「薔薇のマリー」と呼ばれたストリッパーだった。
マリーは真っ白い内腿に、血の色に近い赤黒い薔薇の刺青を施していたと言う。
横浜を根城にしていたマリーは、その美貌と均整のとれた裸身から、熱狂的なファンを抱えるアイドル系ストリッパーの走りだった。
だが二十代後半でマリーは姿を消した。
数年後、再び横浜に現れたマリーは、子供を抱いて大岡川に飛び込んで水死した。
マリーの亡骸の傍らには、係留船の舫い引っ掛かって泣く女児がいた。
その奇跡的に助かった女児が月絵だった。
マリーの死は自殺として処理された。
月絵の父親が誰かもわからず、乳飲み子を抱えてストリップにも戻れないマリーが、将来を悲観して身を投げたと警察は断定した。
つづく…
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紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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月絵はソファに座ると、手酌で飲んでいた金治に徳利を傾けた。
「お前がお酌してくれるなんて珍しいな。小遣いが足りなくなったのか?」
「・・そんなことないよ」
月絵が目を伏せて首を横に振ると、小さく頷いた金治は戸棚のお猪口を探した。
「そうか・・お前も少し飲むか?」
「うん、ちょっとだけ」
冷の日本酒をお猪口に受けると、月絵はその滑らかな白磁にそっと口唇をつけた。
金治はぽっと頬を染める月絵を見て、初めてこの家へ連れて来られた幼い頃を思い返していた。
月絵は孤児だった。
物心ついた時から、金治と亡くなった養母の実子でないことを薄々感じていたようだ。
だが幼心に、真実を聞いたら養父母が悲しむと黙っていたのだろう。
昨日のことのようだ。
中学で反抗期を迎えた月絵は己の出生に悩んで金治を責めた。
月絵を実の子供以上に愛していた金治は、香具師の大親分らしくもなく、目に涙を溜めながら実母のことを話してやった。
月絵の母は、「薔薇のマリー」と呼ばれたストリッパーだった。
マリーは真っ白い内腿に、血の色に近い赤黒い薔薇の刺青を施していたと言う。
横浜を根城にしていたマリーは、その美貌と均整のとれた裸身から、熱狂的なファンを抱えるアイドル系ストリッパーの走りだった。
だが二十代後半でマリーは姿を消した。
数年後、再び横浜に現れたマリーは、子供を抱いて大岡川に飛び込んで水死した。
マリーの亡骸の傍らには、係留船の舫い引っ掛かって泣く女児がいた。
その奇跡的に助かった女児が月絵だった。
マリーの死は自殺として処理された。
月絵の父親が誰かもわからず、乳飲み子を抱えてストリップにも戻れないマリーが、将来を悲観して身を投げたと警察は断定した。
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