二十三夜待ち 第九章
二十三夜待ち 第九章
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清一は月海集落にある造り酒屋の長男で、尋常小学校に通っていた頃から絵が上手だと近隣では有名だった。
小鶴自身も学校の廊下に貼り出された清一の絵を何度か見たことがある。
月出山を写生した絵などは、まるで写真ではないかと見紛うほど、山を覆う木々が一本一本細密に描かれていた。
家業を手伝いながら画家を目指していた清一は、今年の一月、二十一歳で召集されて南方の戦線へ向かって行った。
続く…
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清一は月海集落にある造り酒屋の長男で、尋常小学校に通っていた頃から絵が上手だと近隣では有名だった。
小鶴自身も学校の廊下に貼り出された清一の絵を何度か見たことがある。
月出山を写生した絵などは、まるで写真ではないかと見紛うほど、山を覆う木々が一本一本細密に描かれていた。
家業を手伝いながら画家を目指していた清一は、今年の一月、二十一歳で召集されて南方の戦線へ向かって行った。
(あの夜、若奥様と逢っていたのは清一さんだったのかもしれない)
そう考えると、月光に映し出された若い男の背恰好は、酒屋の店先で見かける清一に似ていたような気もする。
改めて小鶴は愕然とした。
千代が女教師としては月海集落へ赴任した頃、清一はまだ尋常小学校の上級生で在学していた。
千代と清一の関係がいつ始まったかはわからないが、教師と教え子の間柄でありながら二人は情を通わせ合う仲だったのだ。
そして戦地へ出征する前に、清一は自分の手で愛する千代の姿を残しておきたかったのだろう。
それをわざわざ村人の目に触れる月讀神社に残したのは、戦地で死ぬやもしれぬ運命を前に、千代への想いを永遠に刻みつけたい執念に駆られたからかもしれない。
(でも若奥様の立場は・・)
天井画を見た女達は、睦沢家の千代様に似ていると誰ともなく噂した。
だが睦沢家は沈黙した。
何事もなかったかのように、千代も普段通りの生活を続けた。
確かに天女の顔は瓜二つだが、その裸身を実際に見た者は集落におらず、千代に懸想した清一の悪戯だとする男達もいた。
続く…
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