二十三夜待ち 第六章
二十三夜待ち 第六章
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陽射しが照りつける夏の午後。
山の稜線から沸き立つ真っ白な入道雲が、群青の空と鮮やかな境界線を描いている。
けたたましく油蝉が鳴く細い山道を、場違いな一台の車が、路傍の雑草に薙ぎ倒しながら走って来た。
「この辺りでいいわい」
後部座席に乗る嗄れた声に、車を運転していた中年の男は車を慌てて停めた。
正面にゴルフ場を見渡せる小高い丘。
運転席から降りた男は、後部座席のドアを開けて乗っていた老婆の手を引いた。
「ふん、国土を荒らしてゴルフ場ばかり造りおって」
老婆はそう毒づくと、ゴルフ場を見下ろす丘に建つ古めかしい神社へ、杖をつきながら階段を登って行った。
小ぢんまりとしているが、格式の高さを思わせる社殿がどっしりと構えている。
「昔と変わっておらん」
そう呟いて社殿に二礼二拍手一礼する老婆に、後から階段を登って来た運転手が息を切らして問いかけた。
「母さん、これが月讀神社なのかい?」
どうやら運転手と思しき男は老婆の息子らしかった。
「そうだよ・・ここがあたしの生まれ育った集落があったところさ」
老婆はそう答えると、鍵がかかっていない社殿の戸を開けて中へ入った。
時折は近所の老人会でも掃除に来ているのか、社殿の中は小ぎれいに片づいていた。
老婆はふうっと静かに息を吐くと、ゆっくりとした動作で天井を見上げた。
続く…
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