二十三夜待ち 第四章
二十三夜待ち 第四章
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小鶴は薄の穂を力任せに投げ捨てた。
(どうせ不器量だもん・・若奥様ぐらいの器量があればあたしだって・・)
女の幸せが男で決まるなら、不器量で教育も碌に受けていない小鶴など、幸せを争う女の土俵にすら立てないではないか。
母親と同じように貧しい男と結婚し、紅の一つも引けず、一生泥だらけになって老いていくのだろうか。
ふと見上げると、明るい二十三夜の月が、惨めな小鶴の心を見透かすかのように輝いていた。
小鶴は汚れた着物の袖で涙を拭った。
ざわっ。
薄が広がる丘陵を風が渡った。
月の光を映す薄の穂がなびき、龍が如くうねる金波銀波が押し寄せて来る。
その海原に二つの黒い影が見えた。
まるで二頭の黒揚羽蝶のように、影は薄の海原をつかず離れず分け入って行く。
やがて二つの影は野原を抜け、雑木林の暗がりに消えて行った。
(猿や猪じゃないみたいだけど・・)
小鶴は神社から漏れる二十三夜待ちの歓声から離れ、何かにとり憑かれたように、影が紛れ込んだ雑木林へ向かって歩き出した。
恐怖心より好奇心が勝っていたのかもしれない。
背丈ほどある薄の野原を忍び足で抜けた小鶴は、月讀神社の向かいにある雑木林へ分け入った。
かさっ、かさっ。
落ち葉を踏む音に気を払いながら、小鶴は深閑とした木々が放つ霊気を吸い込んだ。
夜の雑木林には、透明な月光が木漏れ日のように射し込み、青白い光と漆黒の闇が、深い海の底にでもいるような錯覚を小鶴に与える。
小鶴ははっと身を木陰に隠した。
「ああ・・」
鈴の音にも似た微かな声が静寂に鳴った。
「好きだ・・離したくない・・」
息を荒げた男の小声が切なく途切れ途切れに聞こえてくる。
続く…
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