二十三夜待ち 第二章
二十三夜待ち 第二章
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確かに眼前に広がる月景色は美しい。
だが月海は、これといった名産品も名所名跡もない貧しい寒村である。
(月餅なら美味しいけど、月の光じゃ腹の足しにもならないよ)
丘陵に囲まれた狭隘な田畑と山林しかない月海集落では、若者が働ける大きな工場や商店はおろか、村人の糊口をしのぐに十分な農地すら拓くことができない。
せいぜい農家の跡継ぎが食べて行けるのが精一杯で、次男三男は口減らしで東京や横浜へ出なければならなかった。
(子守りの仕事にしたって・・)
十五歳になる小鶴は、代々月海集落の長を勤める睦沢家で子守りとして奉公している。
だがいつまでも子守りが続けられるはずもない。
いつかは集落を出て他所の村へ嫁がされる日がやって来る。
薄の穂を手折って小鶴は簪のように髪に挿してみた。
(女なんて・・いくら勉強ができても、貧乏で器量が悪い娘は一生幸せになれない)
利発で賢い娘だと、村の古老達は小鶴を可愛がってくれた。
だが頭を撫でながら古老達は決まって最後にこう言った。
「この先苦労も多かろうが、へこたれてはいかんぞ」
家は小作で貧しく、父はだらしない男だった。
金もないのに博打好き、その上酒飲みでいつも母を怒鳴り散らしていた。
家計を助けるため、母は昼間の農作業に加えて夜は内職に精を出さざるを得なかった。
女の幸せは男次第だ。
何一つ化粧もせず、野良着姿で婢女のように仕える母に、小鶴は他力本願にも似た女の宿命を腹立たしく呪った。
続く…
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