『追憶の白昼夢』 第二章
『追憶の白昼夢』
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(二)
南雲彩香との出会いは大学時代に遡る。
当時私と彼女は違う大学に通っていたが、共通のサークルに所属していた。
大学二年の春、彩香と私は互いに魅かれ恋に落ちた。
そして卒業まで二人の蜜月は続いた。
彩香は電話の向こうでクスッと笑った。
「そうね。もっと正確に言えば、十五年前から音信不通になっている昔の恋人ね。ねえ、哲ちゃん、久しぶりに昔の恋人と会いたくない?」
「えっ、あ、会うって」
彩香と話すだけでも動揺を隠せない私は、驚きの余り声を裏返らせてしまった。
「うん、実は今度の日曜日、東京で知り合いのピアノの先生の演奏会があるの。それで土曜日に上京するんだけど、もし時間が空いていたら会えないかしら?」
「…二人でか?」
多人数の同窓会ならば気も楽だが、二人きりの再会となると話は別だ。
彩香は当時結婚まで考えていた恋人である。
勿論肉体の隅々まで知り合っている間柄である。
しかも今私は妻帯者であり、彼女も他人の妻なのだ。
私が戸惑うのも無理からぬことであろう。
だが彼女の折角の誘いを無下に断るのも…という気持ちもあった。
「ねえ、駄目かしら?」
「う、うん、別に予定はないけど―」
「本当!私、朝早く会津を出るから、お昼頃には東京に着くわ。だったら新横浜で会いましょう?ねっ」
「あ、ああ」
彩香の弾んだ声に負け、ついOKしてしまった。
「嬉しい」
十五年ぶりの彩香との会話は、すっかり彼女のペースだった。
勤務時間中だろうからと、待ち合わせ場所と時間だけを決めると、彼女は早々と電話を切った。
しかし私は電話を置いた後もしばらく放心状態で、なかなか仕事が手につかなかった。
再会の約束に困惑しながらも、無意識に顔がにやけてしまう自分が不思議でならなかった。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
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南雲彩香との出会いは大学時代に遡る。
当時私と彼女は違う大学に通っていたが、共通のサークルに所属していた。
大学二年の春、彩香と私は互いに魅かれ恋に落ちた。
そして卒業まで二人の蜜月は続いた。
彩香は電話の向こうでクスッと笑った。
「そうね。もっと正確に言えば、十五年前から音信不通になっている昔の恋人ね。ねえ、哲ちゃん、久しぶりに昔の恋人と会いたくない?」
「えっ、あ、会うって」
彩香と話すだけでも動揺を隠せない私は、驚きの余り声を裏返らせてしまった。
「うん、実は今度の日曜日、東京で知り合いのピアノの先生の演奏会があるの。それで土曜日に上京するんだけど、もし時間が空いていたら会えないかしら?」
「…二人でか?」
多人数の同窓会ならば気も楽だが、二人きりの再会となると話は別だ。
彩香は当時結婚まで考えていた恋人である。
勿論肉体の隅々まで知り合っている間柄である。
しかも今私は妻帯者であり、彼女も他人の妻なのだ。
私が戸惑うのも無理からぬことであろう。
だが彼女の折角の誘いを無下に断るのも…という気持ちもあった。
「ねえ、駄目かしら?」
「う、うん、別に予定はないけど―」
「本当!私、朝早く会津を出るから、お昼頃には東京に着くわ。だったら新横浜で会いましょう?ねっ」
「あ、ああ」
彩香の弾んだ声に負け、ついOKしてしまった。
「嬉しい」
十五年ぶりの彩香との会話は、すっかり彼女のペースだった。
勤務時間中だろうからと、待ち合わせ場所と時間だけを決めると、彼女は早々と電話を切った。
しかし私は電話を置いた後もしばらく放心状態で、なかなか仕事が手につかなかった。
再会の約束に困惑しながらも、無意識に顔がにやけてしまう自分が不思議でならなかった。
つづく…
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