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『再びの夏』 第二十一章

『再びの夏』(二十一)
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(二十一)

ホテルのツインルーム。
照明を落とした灰色の闇に、郁夫の高鼾が響き渡る。

(まるで豚の鳴き声だわ)

由紀子は喧しさに思わず耳を覆った。

午後十一時。
祇園からホテルに戻った郁夫は、いい気分で酒に酔い、久しぶりに由紀子を抱くと、そのままベッドで眠りこんでしまった。

(本当におめでたい人)

由紀子は郁夫が羨ましかった。
言いたいことを言い、やりたいことをやる―他人の心情を思い遣らない独り善がりな人間は、きっとストレスなどとは無縁なのだろう。

だが今夜はその方が良かった。
由紀子は浴衣の合わせを整えると、郁夫が熟睡しているのを何度も確認し、鍵を持ってそっと部屋の外へ出た。

胸が高鳴った。
忍び足で廊下を横切り、向かいの部屋のドアをノックした。

細くドアが開いた。

「どうぞ」

その声に促されて部屋に入った。
由紀子の部屋と同じツインルームだ。
背後でガチャとドアの鍵が閉まった。

「いらっしゃい」

部屋の主は邦彦だった。
由紀子は邦彦の胸に飛び込んだ。

「会いたかったわ、あなた」

「ああ、待ち遠しかったよ」

邦彦は優しく由紀子を抱き返した。

つづく…
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『再びの夏』 第二十二章

『再びの夏』(二十二)
FC2 R18官能小説

(二十二)

二人はテーブルを挟んで椅子にかけた。
テーブルには赤ワインとグラスが二つ用意されていた。
年代物なのか、渋みのある赤色のワインが注がれる。

「京都の夜に乾杯」

邦彦はグラスを揚げた。
由紀子はフレンチ・キスでもするように、そっとグラスを合わせた。

由紀子と邦彦の関係は今も続いている。
もう二十六年目を迎える。

だが邦彦が住む京都で、こうして会うのは初めてだった。
父親を亡くして会社を継いだ邦彦は、二カ月に一度のペースで東京の支店へ出張する。
東京に滞在している間、時間が許す限り、由紀子は邦彦と密会を重ねてきた。

邦夫に旅行へ行こうと誘われた由紀子は、どうしたらいいか邦彦に相談した。

「それなら京都に来たらいい。同じホテルに僕も泊るようにするから、ご主人が寝たら訪ねておいでよ」

「でも大丈夫かしら…ばれたら…」

「ばれたらばれた時さ。ご主人がぐっすり寝ている間に、間男するのもスリルがあっていいじゃないか」

邦彦は電話で子供っぽく笑うと、宿泊するホテルを確認した。

カーテンを開けた窓からは、闇に沈んだ京都が一望できる。
古、妖怪や鬼が跳梁跋扈した夜の都。
今夜は、由紀子自身が、その怪しい魑魅魍魎に化しているのだと思った。

ワイングラスの向こうに邦彦を見た。
邦彦は四十四歳になっていた。
若かりし日のあどけなさは消え、世間の荒波を泳ぐ経営者として貫禄が滲んでいる。

一人の男の変貌を見続けてきた由紀子には、それが喜びであり、同時に老いさらばえた自分を映す鏡でもあった。

つづく…
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『再びの夏』 最終章

『再びの夏』(二十三)
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(二十三)

邦彦は、ワインを飲みながら由紀子の話を聞いてくれた。

「ふ〜ん、ご主人が早期退職するの」

「ええ、聞いた途端に目の前が真っ暗になっちゃった」

「まあ、早期退職しなくても、いつかは会社をリタイアする日はくるけどね」

「でもこれから死ぬまで、あの人とずっと一緒にいるのかと思うと地獄よりつらいわ」

由紀子はほうっと大きくため息をついた。
邦彦はしばらく考え込んでいたが、にっこり笑って思いがけないことを言った。

「それなら由紀子も早期退職すれば?」

「え?」

「つまりさ。ご主人の妻としての仕事を、二十年ばかり早めに辞めさせてもらえばいいじゃないか」

「それって熟年離婚しろってこと?それも考えたけど、老後の生活が…」

邦彦はチッチッと舌打ちして指を振った。

「馬鹿だなぁ。早期退職っていうのは、会社の本音はリストラだけど、建前はご主人が言った通り、第二の人生のスタートを早めに切ることだろう」

「でも第二の人生なんて…ないわ」

「鈍いな。つまりご主人と別れて、僕と一緒に暮らそうってプロポーズしているんだよ」

由紀子はポカンとして邦彦を見つめた。

「…だ、だって、あなたにも奥さんがいるじゃない」

「心配しなくていい。いつかこんな日が来るだろうと思って、妻が浮気している証拠を握っているんだ」

「浮気?」

「ああ、結婚した当初から怪しいと思っていたんだが、妻は声楽の師匠にあたる爺さんの妾みたいなものだったんだ。興信所を雇って調べたら、爺さんとホテルの部屋に入る妻の写真を送って来たよ」

「まあ、酷い」

「でもそれはお互い様だろう。もう両親も死んだし、子供もいないから、誰に気兼ねなく離婚できるってわけだ」

邦彦はワインをグラスから飲み干すと、由紀子の手を握った。

「結婚してくれるだろう?」

「で、でも、私、あなたより十一も年上のお婆さんだし…」

「そんなことは二十六年も前からわかっている。今までは日陰で愛し合ってきたけど、残りの人生は日向で一緒に過ごしたい。明日、ご主人に退職届けを出してくれるね?」

「…はい」

涙で邦彦の顔が歪んで見えた。
向いの部屋で熟睡中の郁夫にはすまないが、これから一緒に邦彦と暮らせるという喜びがこみ上げてきた。

邦彦は由紀子をベッドに誘った。
由紀子は、恥じらう新妻のように、邦彦の胸に顔を埋めた。

「ところで、今夜は元亭主に抱かれたの?」

「え?ええ…まあ…」

「僕を裏切って浮気したんだ」
「浮気だなんて…のしかかってきて、勝手に一人でいっちゃっただけよ」

「でも浮気は浮気だ。妻には最初の躾が肝心だ。今夜は厳しいお仕置きをしてやるから覚悟しろよ」
そう笑いながら言うと、邦彦は由紀子の上に覆い被さってきた。
終わり

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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
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臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
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だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
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作 品 紹 介
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