『不如帰』・・・第十一章
『不 如 帰』 (永遠の嘘)
長年に亘り妻を苦しめてきた夫の裏切り行為に対し、
執念の復讐が実行に移される時がきた。
だが妻の復讐心を覆す衝撃の真実が今、明かされる。
第十一章
巨大な病院を夜の帳が包んでいく。
青白い蛍光灯の下、病棟の長い廊下は、不気味なまでの静寂に圧迫されていた。
だが耳を澄ませば、低い地鳴りのように、患者達の呻き声やすすり泣きが聞えてくる。
前を歩く勇輝が佳珠子を振り返った。
「母さん、見送りはここでいいよ」
「これからまた仕事に戻るの? あまり無理をしないようにね」
「うん、また時間を見つけて来るけど、母さんも体を壊さないように気をつけて」
そう佳珠子を労うと、勇輝はコツコツと足音を残響させて帰って行った。
勇輝の姿が見えなくなるまで、佳珠子は無言のまま廊下に佇んでいた。
(会うたびに義兄さんに似ていく)
子供の頃は気づかなかったが、長ずるにつれて大柄で腕も毛深くなり、勇輝は武彦譲りの遺伝子を紛うことなく伝えていた。
あの一夜限りの情交で、佳珠子は思惑通り武彦の子を身ごもったのだ。
だが妊娠した当初は、佳珠子も武彦の子供かどうか確信を持てずにいた。
何故なら、翌日東京へ戻ると、克哉は憑かれたように佳珠子の体を求めたからだった。
前夜会津若松で浮気したにも拘らず、克哉は何度も執拗に佳珠子の中へ精液を注ぎ込んだ。
僅か二十四時間を隔てただけで、あろうことか、佳珠子は兄弟二人の精液を受け入れたのだ。
戸籍上は、克哉の子として生まれた勇輝だったが、佳珠子自身どちらの子供か判りかねていた。
その五年後、武彦は肝臓癌で早世した。
亡くなる直前、佳珠子と勇輝は、克哉に連れられて僻村の病院へ見舞いに行った。
「兄さん・・」
克哉は病床で大人気なく泣いた。
あの夜以来の再会となる佳珠子は、武彦の凄まじい顔の変わりように言葉もなかった。
克哉は幼い勇輝を抱くと、武彦の枕元で初めて甥の顔を披露した。
「・・・・」
「兄さん、平野家の跡継ぎです」
「・・あ、ああ」
かつて佳珠子を抱いた逞しい腕が、ミイラのように骨と皮ばかりになっていた。
武彦はその手で勇輝の手を握って笑顔を浮かべた。
だが佳珠子は見逃さなかった。
勇輝の顔を見た瞬間、武彦の顔が驚愕に強張ったのを。
葬儀の後、遺品の整理に家を訪れた佳珠子は、茶色に変色した白黒写真を見つけた。
幼い頃の武彦が写っていた。
(やはり・・)
佳珠子は勇輝が武彦の子だと確信した。
その顔は勇輝と見紛うばかりに似ていた。
武彦は、年を経てからは想像できない愛らしい顔をしていた。
幼い頃に撮った克哉の写真も見たが、勇輝とは似ても似つかなかった。
つづく…
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執念の復讐が実行に移される時がきた。
だが妻の復讐心を覆す衝撃の真実が今、明かされる。
第十一章
巨大な病院を夜の帳が包んでいく。
青白い蛍光灯の下、病棟の長い廊下は、不気味なまでの静寂に圧迫されていた。
だが耳を澄ませば、低い地鳴りのように、患者達の呻き声やすすり泣きが聞えてくる。
前を歩く勇輝が佳珠子を振り返った。
「母さん、見送りはここでいいよ」
「これからまた仕事に戻るの? あまり無理をしないようにね」
「うん、また時間を見つけて来るけど、母さんも体を壊さないように気をつけて」
そう佳珠子を労うと、勇輝はコツコツと足音を残響させて帰って行った。
勇輝の姿が見えなくなるまで、佳珠子は無言のまま廊下に佇んでいた。
(会うたびに義兄さんに似ていく)
子供の頃は気づかなかったが、長ずるにつれて大柄で腕も毛深くなり、勇輝は武彦譲りの遺伝子を紛うことなく伝えていた。
あの一夜限りの情交で、佳珠子は思惑通り武彦の子を身ごもったのだ。
だが妊娠した当初は、佳珠子も武彦の子供かどうか確信を持てずにいた。
何故なら、翌日東京へ戻ると、克哉は憑かれたように佳珠子の体を求めたからだった。
前夜会津若松で浮気したにも拘らず、克哉は何度も執拗に佳珠子の中へ精液を注ぎ込んだ。
僅か二十四時間を隔てただけで、あろうことか、佳珠子は兄弟二人の精液を受け入れたのだ。
戸籍上は、克哉の子として生まれた勇輝だったが、佳珠子自身どちらの子供か判りかねていた。
その五年後、武彦は肝臓癌で早世した。
亡くなる直前、佳珠子と勇輝は、克哉に連れられて僻村の病院へ見舞いに行った。
「兄さん・・」
克哉は病床で大人気なく泣いた。
あの夜以来の再会となる佳珠子は、武彦の凄まじい顔の変わりように言葉もなかった。
克哉は幼い勇輝を抱くと、武彦の枕元で初めて甥の顔を披露した。
「・・・・」
「兄さん、平野家の跡継ぎです」
「・・あ、ああ」
かつて佳珠子を抱いた逞しい腕が、ミイラのように骨と皮ばかりになっていた。
武彦はその手で勇輝の手を握って笑顔を浮かべた。
だが佳珠子は見逃さなかった。
勇輝の顔を見た瞬間、武彦の顔が驚愕に強張ったのを。
葬儀の後、遺品の整理に家を訪れた佳珠子は、茶色に変色した白黒写真を見つけた。
幼い頃の武彦が写っていた。
(やはり・・)
佳珠子は勇輝が武彦の子だと確信した。
その顔は勇輝と見紛うばかりに似ていた。
武彦は、年を経てからは想像できない愛らしい顔をしていた。
幼い頃に撮った克哉の写真も見たが、勇輝とは似ても似つかなかった。
つづく…
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