『不如帰』・・・最終章
『不 如 帰』 (永遠の嘘)
長年に亘り妻を苦しめてきた夫の裏切り行為に対し、
執念の復讐が実行に移される時がきた。
だが妻の復讐心を覆す衝撃の真実が今、明かされる。
最終章
克哉は佳珠子の手を握った。
「俺は・・間違えていた・・」
あの夜、妻を兄に委ねた夜、一人会津若松のホテルで、克哉は悶々として一睡もできなかった。
佳珠子への嫉妬だった。
だが嫉妬は愛だった。
例え平野家を滅ぼしたとしても、邪悪な人工授精などするべきではなかったと克哉は悔やんだ。
愛を取り戻すべく、東京へ戻ってから、克哉は激しく佳珠子の体へ頼りない精液を注ぎ込んだのだった。
ところが予期せぬことに、その微妙なタイミングの最中、期せずして勇輝が生まれてしまったのだ。
「無条件に・・勇輝は可愛かった・・だがやるせない疑惑が残った・・」
自らが仕掛けた結末だが、もしや兄の子ではと言う苦悩が更に克哉を苛んだ。
その逃げ道に、克哉はますます女遊びにのめり込んでいった。
「教えてくれ・・真実を・・勇輝はどちらの子供なんだ・・」
克哉の頬から伝った涙が佳珠子の手の甲に落ちた。
そこには、冷たい手からは想像できない温もりがあった。
克哉の種明かしに佳珠子は迷った。
克哉が哀れだった。
佳珠子へのコンプレックス、そして家を守る義務感――そんな重圧に耐え切れず、克哉は懊悩し続けてきたのだ。
だがそれで佳珠子の半生が救われるのだろうか。
重い天秤が心の中で揺れた。
長い沈黙とともに、佳珠子はふうっと長く息を吐き出した。
「本当に馬鹿な人ね。私がお義兄さんと何かあるわけないでしょう? 勇輝は間違いなくあなたの子供よ」
息を荒げた克哉をベッドヘ寝かせると、佳珠子はハンカチを出して顔に伝う涙を拭ってやった。
「そ、そうか・・俺の子か・・」
克哉は無邪気に笑みを浮かべた。
藁にも縋る思いで、克哉も三十年その一言を待っていたのだろう。
佳珠子は心の中で呟いた。
(永遠の嘘・・)
不如帰は、冥途へ道案内してくれる鳥だと方丈記に書かれている。
西方浄土はどこにあるのだろうか?
西方浄土は遠い空の上にあるのではなく、人の慈悲にあるのだと佳珠子は噛み締めた。
――閉幕――
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「俺は・・間違えていた・・」
あの夜、妻を兄に委ねた夜、一人会津若松のホテルで、克哉は悶々として一睡もできなかった。
佳珠子への嫉妬だった。
だが嫉妬は愛だった。
例え平野家を滅ぼしたとしても、邪悪な人工授精などするべきではなかったと克哉は悔やんだ。
愛を取り戻すべく、東京へ戻ってから、克哉は激しく佳珠子の体へ頼りない精液を注ぎ込んだのだった。
ところが予期せぬことに、その微妙なタイミングの最中、期せずして勇輝が生まれてしまったのだ。
「無条件に・・勇輝は可愛かった・・だがやるせない疑惑が残った・・」
自らが仕掛けた結末だが、もしや兄の子ではと言う苦悩が更に克哉を苛んだ。
その逃げ道に、克哉はますます女遊びにのめり込んでいった。
「教えてくれ・・真実を・・勇輝はどちらの子供なんだ・・」
克哉の頬から伝った涙が佳珠子の手の甲に落ちた。
そこには、冷たい手からは想像できない温もりがあった。
克哉の種明かしに佳珠子は迷った。
克哉が哀れだった。
佳珠子へのコンプレックス、そして家を守る義務感――そんな重圧に耐え切れず、克哉は懊悩し続けてきたのだ。
だがそれで佳珠子の半生が救われるのだろうか。
重い天秤が心の中で揺れた。
長い沈黙とともに、佳珠子はふうっと長く息を吐き出した。
「本当に馬鹿な人ね。私がお義兄さんと何かあるわけないでしょう? 勇輝は間違いなくあなたの子供よ」
息を荒げた克哉をベッドヘ寝かせると、佳珠子はハンカチを出して顔に伝う涙を拭ってやった。
「そ、そうか・・俺の子か・・」
克哉は無邪気に笑みを浮かべた。
藁にも縋る思いで、克哉も三十年その一言を待っていたのだろう。
佳珠子は心の中で呟いた。
(永遠の嘘・・)
不如帰は、冥途へ道案内してくれる鳥だと方丈記に書かれている。
西方浄土はどこにあるのだろうか?
西方浄土は遠い空の上にあるのではなく、人の慈悲にあるのだと佳珠子は噛み締めた。
――閉幕――
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