『不如帰』・・・第十三章
『不 如 帰』 (永遠の嘘)
長年に亘り妻を苦しめてきた夫の裏切り行為に対し、
執念の復讐が実行に移される時がきた。
だが妻の復讐心を覆す衝撃の真実が今、明かされる。
第十三章
武彦と克哉は仲のいい兄弟だった。
山奥の集落で二人きり、しかも年が十二歳も離れていたので、喧嘩した記憶などほとんどなかった。
父親が亡くなった時、武彦は社会人、克哉はまだ中学生だった。
当時武彦は、高校を首席で卒業して、東京の大企業で会社員をしていた。
努力家で頭脳優秀だった武彦は、高卒でありながら将来を嘱望されていた。
結婚を考えていた恋人もいたらしい。
だが武彦は病弱な母親と克哉を案じ、全てを捨てて故郷へ帰ってきた。
武彦は黙々と山仕事に精を出した。
いくら集落では名家と言っても、過疎の山奥に嫁ぐ嫁などいなかった。
そんな境遇にも愚痴ひとつ零さず、武彦は父親代わりとなり、克哉を大学まで進学させてくれたのだった。
静寂な病室には、克哉の苦しげな呼吸だけがひゅうひゅうと響いている。
「兄貴は優しかった・・俺など足元にも及ばないほど素晴らしい人だった・・俺を一廉の人間にしようと・・自分の人生を山奥に埋もれてしまったんだ・・」
武彦が亡くなった時、克哉が子供のように泣いていた理由を佳珠子は初めて知った。
だが佳珠子は情に流されそうな自分を戒めた。
聖人君主のように克哉は崇めるが、佳珠子はあの夜、獣となった武彦に犯されているのも事実だった。
克哉は独白を続けた。
ところが武彦への感謝は、時代を経て克哉の心の中で負い目へと変質していった。
優秀ではない弟が、将来ある兄の人生を奪った後悔だったのかもしれない。
中でも、平野家の当主である優秀な武彦の遺伝子を残せない悔いは、克哉が東京で就職してから、心中で取り返しのつかない罪悪へと変わっていった。
しかもその負い目に拍車をかけたのは、克哉自身が、子をつくる能力に乏しいとわかったことだった。
結婚してから、佳珠子が妊娠しないのを不思議に思った克哉は、密かに一人で医師へ相談に行った。
結果は、無精子症ではないものの、精子の運動率が低く、妊娠させづらい体質だと宣告された。
克哉は懊悩した。
このままでは武彦の人生どころか、平野家までも山奥の荒地に歴史を埋もれさせることになる。
平家の落人伝説が本当かは別として、千年近く続いた先祖の供養を途絶えさせる責任は、克哉一人が負うにはあまりにも過酷過ぎた。
克哉は煙草を空き缶で揉み消すと、落ち窪んだ目で佳珠子に意外な事実を告げた。
「苦しんで・・苦しんで・・考え抜いて出した結論は・・兄貴の子供をお前に産ませることだった・・」
つづく…
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執念の復讐が実行に移される時がきた。
だが妻の復讐心を覆す衝撃の真実が今、明かされる。
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武彦と克哉は仲のいい兄弟だった。
山奥の集落で二人きり、しかも年が十二歳も離れていたので、喧嘩した記憶などほとんどなかった。
父親が亡くなった時、武彦は社会人、克哉はまだ中学生だった。
当時武彦は、高校を首席で卒業して、東京の大企業で会社員をしていた。
努力家で頭脳優秀だった武彦は、高卒でありながら将来を嘱望されていた。
結婚を考えていた恋人もいたらしい。
だが武彦は病弱な母親と克哉を案じ、全てを捨てて故郷へ帰ってきた。
武彦は黙々と山仕事に精を出した。
いくら集落では名家と言っても、過疎の山奥に嫁ぐ嫁などいなかった。
そんな境遇にも愚痴ひとつ零さず、武彦は父親代わりとなり、克哉を大学まで進学させてくれたのだった。
静寂な病室には、克哉の苦しげな呼吸だけがひゅうひゅうと響いている。
「兄貴は優しかった・・俺など足元にも及ばないほど素晴らしい人だった・・俺を一廉の人間にしようと・・自分の人生を山奥に埋もれてしまったんだ・・」
武彦が亡くなった時、克哉が子供のように泣いていた理由を佳珠子は初めて知った。
だが佳珠子は情に流されそうな自分を戒めた。
聖人君主のように克哉は崇めるが、佳珠子はあの夜、獣となった武彦に犯されているのも事実だった。
克哉は独白を続けた。
ところが武彦への感謝は、時代を経て克哉の心の中で負い目へと変質していった。
優秀ではない弟が、将来ある兄の人生を奪った後悔だったのかもしれない。
中でも、平野家の当主である優秀な武彦の遺伝子を残せない悔いは、克哉が東京で就職してから、心中で取り返しのつかない罪悪へと変わっていった。
しかもその負い目に拍車をかけたのは、克哉自身が、子をつくる能力に乏しいとわかったことだった。
結婚してから、佳珠子が妊娠しないのを不思議に思った克哉は、密かに一人で医師へ相談に行った。
結果は、無精子症ではないものの、精子の運動率が低く、妊娠させづらい体質だと宣告された。
克哉は懊悩した。
このままでは武彦の人生どころか、平野家までも山奥の荒地に歴史を埋もれさせることになる。
平家の落人伝説が本当かは別として、千年近く続いた先祖の供養を途絶えさせる責任は、克哉一人が負うにはあまりにも過酷過ぎた。
克哉は煙草を空き缶で揉み消すと、落ち窪んだ目で佳珠子に意外な事実を告げた。
「苦しんで・・苦しんで・・考え抜いて出した結論は・・兄貴の子供をお前に産ませることだった・・」
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