『不如帰』・・・第十二章
『不 如 帰』 (永遠の嘘)
長年に亘り妻を苦しめてきた夫の裏切り行為に対し、
執念の復讐が実行に移される時がきた。
だが妻の復讐心を覆す衝撃の真実が今、明かされる。
第十二章
佳珠子は、写真を克哉の目につかぬようダンボールにつめた。
そして何食わぬ顔で、焼却するゴミと一緒に捨てた。
ナースが傍らを小走りに通り過ぎた。
佳珠子ははっと我に返った。
克哉の個室を前にして、佳珠子は深く息を吸い込んだ。
(勇輝は武彦さんの子よ)
佳珠子は、心の中で何度も呪文のように繰り返した。
勇輝が見舞いに来た今夜こそが、この一言の価値を最大限に引き出すはずだった。
いよいよ佳珠子の復讐が完結する。
虐げられた半生に亘る怨念が、今夜夜空へと昇華していくのだ。
佳珠子は病室の扉をそっと開けた。
克哉は枕元に置かれたテレビに目を遣っていた。
「勇輝は帰ったのか?」
「え、ええ、またこれから霞ヶ関に戻って仕事ですって」
「そうか・・鳶が鷹を産む・・俺の子供にしては出来すぎだよ」
そう自虐的な笑いを浮かべ、克哉はテレビの電源を消した。
佳珠子はついにその一言を切り出した。
「あなた、勇輝は・・」
「・・兄貴の子供じゃないのか?」
佳珠子の脳髄が一瞬にして凍りついた。
じっと克哉は佳珠子の表情を見つめている。
咄嗟に佳珠子は平然を装って嘘を着いた。
「何を言い出すかと思ったら・・」
勇輝が見舞いに持ってきてくれた林檎を、佳珠子は素知らぬ振りをして剥き始めた。
克哉は痩せこけた顔で佳珠子に迫った。
「俺はもうすぐ死ぬ・・死ぬ前に真実が知りたい・・」
「し、真実って?」
「もし勇輝が兄貴の子供だったとしても・・お前を責めようとは思わない・・」
「・・・・」
「あの夜・・お前を兄貴と二人きりにしたのも・・すべて俺が企んだことなんだ・・」
克哉はそう告げると、どこで買ってきたのか煙草を取り出して火をつけた。
「あ、あなた、肺癌なのにダメよ!」
「いいんだ・・死に逝く者に養生など必要ない・・ただ・・自分の人生を・・全うするために・・俺も話す・・だからお前も最後に種明かしして欲しい・・」
煙草の煙に克哉は激しく咳き込んだ。
だがその落ち窪んだ目には、爛々と真実への執着が灯っていた。
克哉は枕元に佳珠子を座らせて、途切れ途切れに、三十年隠し続けてきたことを話し始めた。
つづく…
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執念の復讐が実行に移される時がきた。
だが妻の復讐心を覆す衝撃の真実が今、明かされる。
第十二章
佳珠子は、写真を克哉の目につかぬようダンボールにつめた。
そして何食わぬ顔で、焼却するゴミと一緒に捨てた。
ナースが傍らを小走りに通り過ぎた。
佳珠子ははっと我に返った。
克哉の個室を前にして、佳珠子は深く息を吸い込んだ。
(勇輝は武彦さんの子よ)
佳珠子は、心の中で何度も呪文のように繰り返した。
勇輝が見舞いに来た今夜こそが、この一言の価値を最大限に引き出すはずだった。
いよいよ佳珠子の復讐が完結する。
虐げられた半生に亘る怨念が、今夜夜空へと昇華していくのだ。
佳珠子は病室の扉をそっと開けた。
克哉は枕元に置かれたテレビに目を遣っていた。
「勇輝は帰ったのか?」
「え、ええ、またこれから霞ヶ関に戻って仕事ですって」
「そうか・・鳶が鷹を産む・・俺の子供にしては出来すぎだよ」
そう自虐的な笑いを浮かべ、克哉はテレビの電源を消した。
佳珠子はついにその一言を切り出した。
「あなた、勇輝は・・」
「・・兄貴の子供じゃないのか?」
佳珠子の脳髄が一瞬にして凍りついた。
じっと克哉は佳珠子の表情を見つめている。
咄嗟に佳珠子は平然を装って嘘を着いた。
「何を言い出すかと思ったら・・」
勇輝が見舞いに持ってきてくれた林檎を、佳珠子は素知らぬ振りをして剥き始めた。
克哉は痩せこけた顔で佳珠子に迫った。
「俺はもうすぐ死ぬ・・死ぬ前に真実が知りたい・・」
「し、真実って?」
「もし勇輝が兄貴の子供だったとしても・・お前を責めようとは思わない・・」
「・・・・」
「あの夜・・お前を兄貴と二人きりにしたのも・・すべて俺が企んだことなんだ・・」
克哉はそう告げると、どこで買ってきたのか煙草を取り出して火をつけた。
「あ、あなた、肺癌なのにダメよ!」
「いいんだ・・死に逝く者に養生など必要ない・・ただ・・自分の人生を・・全うするために・・俺も話す・・だからお前も最後に種明かしして欲しい・・」
煙草の煙に克哉は激しく咳き込んだ。
だがその落ち窪んだ目には、爛々と真実への執着が灯っていた。
克哉は枕元に佳珠子を座らせて、途切れ途切れに、三十年隠し続けてきたことを話し始めた。
つづく…
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